広く一般にも認知されるようになった競売(きょうばい・けいばい)ですが、本当に詳しく理解できている方は一握りです。実際のところ、競売物件は物理的・権利的な瑕疵(欠陥)があることが多く、一般の方が手を出すのはとても危険です。今回は競売の基本について解説します。
また、最近では「任意売却」という言葉もよく耳にするようになりました。「にんばい」と略されることが多いですが、正確に理解できている方はこちらも稀でしょう。後半では、任意売却の基本に触れ、競売との違いも解説します。下手に手を出してケガをする前に、基本だけでも理解しておきましょう。
[voice icon="https://antenna-re.b-cdn.net/wp-content/uploads/2016/02/S.KOU_-1.jpg" name="S.KOU" type="l"]競売は「きょうばい」が一般的な読み方で、「けいばい」は法律用語としての読み方です。業界の人間は「けいばい」で読むことが多いですが、どちらでも正解です。[/voice]
【この記事からわかること】
- 競売の基礎知識
- 競売不動産取扱主任者について
- 競売の3点セット
- 強制執行の基礎知識
- 任意売却の基礎知識
- 任意売却と競売の違い
競売とは
借金というと特別に感じるかもしれませんが、多くの方が住宅ローンをはじめ生活の中でさまざまな借金をしながら生きています。借りたら返すのが当たり前ですが、ときには返済ができなくなることもあるでしょう。貸したお金が返ってこないのは、貸した側にとっては大きな損害です。
ただ、貸した側が泣き寝入りする必要はありません。貸した側が裁判所に申し立てをすることで、借りた側の担保となっている不動産や財産を差し押さえることができます。差し押さえた不動産や財産を裁判所の権限で強制的に売って、売ったお金から貸したお金を返してもらう・・・この手続きのことを競売といいます。
競売の流れ
競売の流れについて解説します。まず、返済ができなくなるといわゆるブラックリストに載るという状態になります。本人が返済できない分は、保証会社などが金融機関に返済をしてくれます。しかし、保証会社はあくまでも立て替えただけであり、本人が返済をしなくてよいわけではありません。ここから競売の申し立てがあり、競売の開始が決定し、差し押さえがおこなわれるようになります。
まず、開始決定の通知が送付されることになります。その後、執行官が現状調査をするために現地を訪問します。不動産の評価がなされ、売却基準価格が決定します。売却基準価格決定後、売却を実施の公告がなされます。公告により不動産が競売にかけられたことを多くの方が知ります。
引っ越し時期や費用が考慮されることはなく、借りた側の都合は基本的に無視されます。そして、入札から開札を経て、不動産の所有権が落札者に渡ることになります。借りた側は不動産を使うことができなくなります。最後に引き渡し命令、強制執行がなされ、仮に立てこもっていても強制的に放り出されます。これが競売の流れです。
BIT 不動産競売物件情報サイトについて
BIT 不動産競売物件情報サイトは、名前の通り不動産競売物件に関する情報を取り扱っているサイトです。裁判所の不動産競売物件を検索し、電子化された物件明細書や現況調査報告書、評価書の3つを自由にダウンロードし、閲覧することができます。インターネット上で競売物件情報を公開するために作られたサイトです。
競売物件情報の検索はもちろん、過去のデータや用語集、競売にあたっての手続きの案内などさまざまな情報を提供してくれます。競売に関する情報を集めたいときには是非参考にしたいサイトです。
競売不動産取扱主任者とは
競売不動産取扱主任者は、民間資格のひとつです。名前の通り、競売不動産取り扱いのプロフェッショルです。もともと不動産は複雑なことが多く、一般の方には難しいところが多いものです。中でも不動産競売は困難を極める訳あり物件が多いため、その取り扱いについてサポートするのが競売不動産取扱主任者です。
競売不動産取扱主任者の資格が、不動産競売における一定の知識を持っていることの証明になります。競売不動産取扱主任者の資格保有者であれば不動産競売に関して安心して相談することができますし、また本人の業務の幅も広がっていきます。不動産競売はトラブルが多く、トラブル減少のためにも今の時代に必要とされている資格といえます。
競売の3点セット
期間入札の公告・物件目録・物件明細書
期間入札の公告と物件目録には、競売物件に関する情報が項目ごとに載っています。
- 入札期間
- 開札期日(日時、場所)
- 売却決定期日
- 特別売却実施期限
- 買受申出の保証の提供方法
- 買受申出の資格の制限
- 物件番号
- 売却基準価格
- 買受可能価格
- 一括売却
- 買受申出保証額
- 固定資産税
- 都市計画税
物件明細書には、競売物件を落札したときに付随してくる権利などが記載されています。
- 不動産の表示
- 売却により成立する法定地上権の概要
- 買受人が負担することとなる他人の権利
- 物件の占有状況などに関する特記事項
- その他買受の参考となる事項
基本的に競売物件は、表面上の問題よりも権利関係の問題に注意する必要があります。付随してくる権利や競売対象の権利がどのような権利なのかはしっかりと調べましょう。占有者には注意が必要で、登記に記されている所有者などはまったくあてになりません。負債なども引き継ぎ対象となるため、掘り出しものだと思ったら、実はひどい物件だったというケースが多々あります。
現況調査報告書
現況調査報告書は、執行官が各物件について土地・建物の形状や占有状況を調査して作成した書類です。調査時点での現況について記載されています。
対象物件の位置関係や間取図などを確認することは当然です。その他にも占有者について記述されていたり、関係者の陳述と執行官の意見が掲載されています。重要なポイントが書かれているので、必ず目を通すようにしましょう。
評価書
評価書は、競売物件についての総合的な評価が記載されています。評価書の作成には、不動産鑑定士が活躍しています。専門的な意見が書かれているので、読みこなすのは難しいですが、読む価値は十分あります。
競売に挑むのであれば3点セットには必ず目を通すようにしましょう。
強制執行(立ち退き)
不動産競売における強制執行(立ち退き)について解説します。不動産が競売にかけられ、誰かがその不動産を落札したとします。落札した人のことを買受人と呼ぶのですが、この買受人が代金を支払うと、その時点で不動産は買受人のものになります。つまり、所有権が買受人へと移転します。
返済ができなくなった元の持ち主が競売にかけられている間も、その不動産で生活するのはよくあることです。しかし、買受人に所有権が移ってしまうと、他人の不動産に不法占拠している状態になります。基本的には「いつまでに出ていくようにしてくださいね」と話し合うのですが、期日になっても出ていかない場合には、強制執行(立ち退き)という手段を取ります。
元の持ち主にも猶予が必要なので、ある程度期間を設ける方が多いです。しかし、問答無用で強制執行(立ち退き)の申し立て手続きを取る方も中にはいます。どのような態度で臨むのかは、買受人の考え方次第といえます。
明け渡し催告
強制執行の申し立てを受けても、すぐに放り出されるわけではありません。強制執行の申し立てがあると、まずは催告が通知されます。申し立てからおよそ2週間ほどで、裁判所から執行官がやってきます。「今から1か月後に強制執行します。それまでに出ていってください。」といったことを伝えます。これが明け渡し催告であり、強制執行の第1段階です。
断行
強制執行の第1段階が明け渡し催告でしたが、第2段階が断行です。明け渡し催告を受けても、期日までに退去しない場合、断行が行われます。断行によって、その不動産内にある家財などの一切が外に搬出されます。
外に出しっぱなしにするのではなく、倉庫に保管されます。問答無用で搬出するので、執行官だけではなく鍵屋さんや搬出業者も一緒に来ます。家財などを運び出した後には、鍵が換えられるので、元の持ち主は二度と中には入れません。
任意売却とは
不動産の競売について解説してきましたが、任意売却についても少し解説します。任意売却というのは、住宅ローンなどの返済が困難なときに債務者(借り手・一般消費者)と債権者(貸し手・金融機関)の間に仲介者が入ることによって、不動産を競売にかけずに、あくまでも債務者の意思で売却するものです。
不動産を手放すときには、通常、抵当権の抹消をします。基本的に抵当権を抹消するためにはローンを完済しなければいけません。仮に、不動産を競売にかけても、落札価格がローンの残債を下回ることがあります。このとき、足りない金額は債務者が補わなければ抵当権を解除できません。しかし、任意売却では、足りない金額を残したまま抵当権を解除してもらえます。
非常に魅力的に思える任意売却ですが、誰でも利用できるものではありません。あくまでもローンの返済が滞っていることがひとつの条件です。だいたい3か月ほど滞納すると、債権者である金融機関が動き出します。早い段階で金融機関と任意売却についての話し合いをしましょう。
任意売却の流れとしては、まず仲介役となってくれる仲介業者を選ぶところから始まります。仲介業者と契約を結び、金融機関と交渉、不動産の販売活動へと進んでいきます。購入希望者が複数出てくれば購入者を選び、価格の面で金融機関と交渉していきます。交渉がまとまったら、不動産の売買契約を結び、引っ越しから代金の決済となります。
競売と任意売却の違い
不動産を売るというところでは共通している競売と任意売却ですが、やはり違いも多いものです。ここでは、競売と任意売却の違いについて解説します。おおきく5つの違いをご紹介します。
まず、所有者の意思です。競売では基本的に所有者の意思は反映されません。ほとんどのステップが問答無用で進められていくようなイメージになります。一方で、任意売却では、所有者の意思が反映されます。金融機関との交渉は必要ですが、競売に比べると所有者の意思で物事を進めていくことができるのです。
次に、売却価格です。競売では、相場のおよそ50~80%ほどの価格で落札されることが多いのですが、任意売却では、一般的に市場に出回っている価格付近で売却が可能です。
続いて、ローンの残債についてです。競売では、成約価格にあまり期待ができないので、返済金額があまり減らず、債務が残るケースがほとんどです。一方で、任意売却では、売却価格にも期待ができますし、抵当権の抹消もできるので、売却後の負担を軽くできます。
さらに、引っ越しについてです。競売では、引っ越し代は基本的に出ませんし、時期も融通が利きません。言われたようにするしかありません。しかし、任意売却では、引っ越し代の交渉ができますし、うまくいけば引っ越し代を負担がないこともあります。また、引っ越しをする時期も事前に協議して決めることができるので、突然放り出されることはないでしょう。
最後に、情報開示についてです。競売では、新聞やインターネットなど、さまざまなところで公に情報が晒されます。ご近所はもちろん、家族にも知られることになるでしょう。一方、任意売却では、事情を隠しながら売却することができます。周りに知られてしまうのとそうではないのとでは、やはり精神的な負担やダメージも異なります。以上が、競売と任意売却の違いです。
まとめ
借金の返済ができなくなったときに行われるのが、競売です。資産を強制的に現金化し、返済に充当されます。売り手側の都合で強制的に現金化するため、通常の市場価格よりも安くなります。
最近では、競売不動産取扱主任者というプロフェッショナルもいます。彼らは、競売物件について専門知識を有しているため、不安であれば相談してみるのもよいでしょう。競売物件はトラブルが絶えませんので、油断は禁物です。
元の持ち主が退去しない場合、立ち退き(強制執行)が行われます。明け渡し催告が行われた後に、断行という流れになります。法的な措置が取れますが、確実な手順を踏むようにしましょう。
任意売却では、金融機関と相談しながら売却を進めることができます。競売に比べると優位に売却ができるので、可能であれば任意売却を活用するのが良いでしょう。