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期限の利益とは:喪失および対象方法、時効と援用、放棄


住宅ローンなどの借金をするときには、債務者(お金を借りる人)に「期限の利益」という権利が与えられます。

民法で定められている権利であり、債務者(金融機関など)も従わなければいけません。

わたしたちが高額の借金などをしたときに、分割払いをすることができるのも「期限の利益」によるものです。

しかし、債務者の最大の盾となる「期限の利益」も約束を破ったりすれば取り上げられてしまいます(期限の利益の喪失)。

この記事では、期限の利益について詳しく解説しています。

そもそも期限の利益とは何か?なにをすると喪失してしまうのか?などについて解説しています。

あなたを守る唯一にして最強の権利である「期限の利益」を失うことがないようにしましょう。

この記事からわかること

  • 期限の利益とは
  • 期限の利益の喪失とは
  • 期限の利益の喪失事由
  • 期限の利益の喪失条項
  • 期限の利益の喪失通知書
  • 消滅時効と援用時効(当然喪失・請求喪失)
  • 期限の利益の再付与
  • 期限の利益の放棄

期限の利益とは

まず、期限の利益という言葉の意味について確認します。

わかりやすくするために、住宅ローンを借りた場合を用いて考えます。

住まいを購入する際に多くの人が住宅ローンを利用することになります。

住宅ローンの借り入れでは、

  • 借り入れをする人が「債務者」
  • お金を貸す人が「債権者」

となります。

住宅ローンにおいて、期限の利益というのは約束した期限が来るまでは返済(完済)をしなくていいという債務者の利益および権利です。

わたしたちが「35年ローン・月々○○円支払い」というお金の借り方ができるのは、期限の利益によるものです。

債務者(金融機関など)は、債権者に「この日まで完済は待ってあげるよ。」という権利を渡しているわけです。

もちろん、ただで債務者に利益を与えるというわけではありません。

完済までに猶予を与える見返りとして、債権者は利息(利子)を受け取ることができるのです。

期限の利益は法律の定める特別の場合に失われることになっているのですが、それでは債権者の利益を十分には確保することができません。

債権者の利益を十分に確保するために、期限の利益喪失に関する約束事を当事者間で決めていくことになります。

基本的に期限の利益というのは債務者にとっての利益になりますので一種のメリットにはなるのですが、メリットばかりではなくその分デメリットも発生してくるという話なのです。

登場人物および条件

期限の利益に関係してくる条件および登場人物を整理します。

住宅ローンなどの借金

まず、住宅ローンなど何かしらの借金が条件です。

借金があり、返済プランについて「期限の利益」を活用して契約を作成します。

債権者

お金を貸している人のことを「債権者」といいます。

銀行や消費者金融などの金融機関です。

債務者

お金を借りている人のことを「債務者」といいます。

期限の利益の権利者が「債務者」です。

民法 第137条

民法 第137条

第137条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。

一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。

三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

期限の利益について、民法 第137条に記載されている定めです。

どのようなことをすると「期限の利益」が失われるのか定められています。

期限の利益は、「一定の期日までは返済を待つよ。」というのが趣旨です。

しかし、

  • 債務者が破産したとき
  • 債務者が担保(たとえば、自宅)を壊したり、売ったりしたとき

などには、悠長に待っているわけにはいきません。

一刻も早く、お金を全額返してもらわなければいけないので、期限の利益が消えるということです。

期限の利益と権利

期限の利益と権利関係を整理します。

債務者(権利者)

期限の利益を使うことができるのは、債務者です。

債務者は、原則として、返済期日(完済日など)までは全額を返済する必要はありません。

ただし、原則としたように、一定の条件(毎月の支払など)を守っている間は返済しなくてよいということになります。

一定の条件を守ることを前提に、期限の利益により守られた債務者は、債権者に対して「分割払い」ができるようになるという流れです。

債権者(金融機関など)

期限の利益を与えるのが、債権者(金融機関など)です。

債権者は、返済期日(完済日など)が来るまでは全額返済の請求ができません。

ただし、返済を待つ間に、債務者が、

  • 職を失う
  • 死ぬ
  • 逃げる

などのリスクを埋め合わせるために利息(利子)を受け取ることができます。

また、債権者・債務者がお互いに約束したことに、債務者が違反したときには、原則として、ただちに一括返済を請求することができます。

まごころう
ちゃんとお金を返している間はニコニコしていますが、ひとたび滞れば鬼の形相で取り立てにくる可能性もあるということです。

期限の利益の喪失

期限の利益を失うことを「期限の利益の喪失」といいます。

住宅ローンを例にして、期限の利益を喪失するとどうなるのか解説します。

期限の利益を確保するためには、住宅ローンの支払期限までに、きちんきちんと支払をすることが大事です。

当然ですが、支払さえしっかりとしていれば期限の利益は守られ続けます。

ですが、支払いを滞らせてしまうと、期限の利益の喪失する可能性が出てきます。

債権者側(金融機関)から住宅ローンを見てみます。

債権者は、債務者であるあなたに対して、住宅ローンが完済されるまでずっと期限の利益を与え続けることを約束しています。

本来であれば、3,000万円の家を購入するには、即金で3,000万円が必要です。

ですが、債権者である銀行が代わりに支払うことによって、手元に3,000万円がなくとも、あなたは家を購入することができます。

その代わりに、決められた期日ごとに一部を返済してくださいというのが住宅ローンです。

重要なのは、あなたと銀行は決められた期日ごとに一部を返済するという約束をしているということです。

この約束こそがすべてであり、この約束をあなたが破れば、銀行もあらゆる約束を破ることができるという理屈です。

そのひとつが期限の利益を与えない、つまり期限の利益を喪失させるということです。

決められた期日ごとに返済すればいいですよという利益が消えるわけですから、その瞬間に債権者は全額返済を請求できるようになります。

全額請求をされたときに返済ができなければどうなるでしょう?

最悪のケースとしては、強制執行や財産の差し押さえなどが行われます。

一般的な期限の利益の喪失事由

期限の利益の喪失事由には、さまざまなものがあります。

一般的な期限の利益の喪失事由について解説します。

※喪失事由とは、喪失につながることです。

返済日(完済日・通告の期日など)にお金を返さなかった

返済日には、

  • 毎月の支払日
  • 完済日
  • 滞納後、通告を受けた期日

などがあります。

すべての約束した日において、定められた金額を支払わない場合には、期限の利益の喪失事由に該当します。

契約内容に違反した

お金を借りるときには「金銭消費貸借契約(きんせんしょうひたいしゃくけいやく)」を結びます。

難しい名前ですが、お金の貸し借りをするときに結ばなければいけない契約というだけです。

金銭消費貸借契約には、お金の貸し借りについて細かいルールが記載されています。

契約書にサインをした時点で、ルールすべてに了解しましたよという意味になります。

ですので、ルール違反をすれば、ルール違反に応じた対応がとられます。

その一つが、期限の利益の喪失です。

たとえば、住宅ローンの担保である家を勝手に売ったりすれば、明らかなルール違反です。

まごころう
なかなかもどかしいですが、住宅ローンで購入した家は、あなたの家ではないと考えるくらいがベターです。

借金を全額返済して、抵当権を抹消したときに、はじめて完全にあなたの所有物となります。

それまでは賃貸住宅の家主が「銀行」に代わったくらいの認識でも言い過ぎというほどではありません。

そもそも契約内容が偽物・嘘だった

そもそも契約内容が偽物・嘘だった場合にも、期限の利益の喪失事由となります。

住宅ローンをたくさん借りるために、年収を多めに書いたなどが該当します。

債権者(金融機関)からすれば、1,000万円の収入があるなら、このくらい返済できるだろうと考えて貸し出ししたものが、本当は500万円だったとなれば大変なことです。

自己破産(および民事再生)の手続きを開始した

自己破産(および民事再生)の手続きを開始した場合にも、期限の利益の喪失事由となります。

破産しているので、一刻も早く貸したお金を回収しなければいけません。

破産をする方のような場合、ほかにもお金を借りている可能性が高いです。

あらゆる方面からお金を回収しようと手が伸びてくるので、ぼーっとしていると回収し損ねてしまいます。

弁護士に債務整理を委任した

自己破産(および民事再生)の手続きと同様、弁護士に債務整理を委任した場合にも、期限の利益の喪失事由となります。

お金がないのは明らかですので、ぼーっとしているわけにはいかないのです。

期限の利益の喪失条項

期限の利益の喪失事由とは別に「期限の利益の喪失条項」があります。

期限の利益の喪失事由は、広く公に当てはまる内容です。

期限の利益の喪失条項は、契約の当事者(債務者・債権者)が独自に結ぶ約束事です。

たとえば、「完済日までは月々○○万円でいいよ。」といった分割返済の約束などです。

当然、喪失条項に違反すれば、期限の利益を喪失することになります。

期限の利益の喪失通知書

期限の利益は、必ずしもただちに喪失するものではありません。

「期限の利益が喪失しそうですよ。」という通知書が、期限の利益の喪失通知書です。

期限の利益の喪失通知書が届いた場合には、通知書に何かしらの指示がなされています。

たとえば、「○○日までに滞納分を含めてすべて支払ってください。」といったものです。

期限の利益の喪失通知書に書かれている内容を守らなかったときに、期限の利益が喪失することになります。

まごころう
後述しますが、期限の利益の喪失通知書による通知なしに、期限の利益が喪失することもあります。

当然喪失といいますが、一定の条件において、当然に期限の利益が喪失することです。

消費者金融との貸金契約では、一度でも支払いが滞れば当然喪失するといった趣旨の条項が記載されているのが大半です。

通知書が届いていないから安心というわけではありません。

あなたの身を守るためにも、支払いは絶対に滞らせないようにしましょう。

対処方法

期限の利益の喪失通知書が届いた場合の対処方法について解説します。

指定された期日までに、ただちに支払う

もっとも有効なことは、指定された期日までに、ただちに支払うことです。

まだ期限の利益は喪失していないので、支払いをすませることで、今まで通りの契約を継続することができます。

期限の利益の喪失通知書が届いた段階では、数か月分の滞納があると思いますが、何としてでも返済してしまうのが最善です。

契約書の内容にあらためて目を通す

予備的なことですが、契約書の内容にあらためて目を通してください。

期限の利益の喪失条項がどうなっているのかを再確認することで、万が一、通知書の内容が間違っていた場合に有効です。

とはいえ、プロからの通知書ですので、間違いがあることはほとんどありません。

今後のための意味合いのほうが強くなります。

債権者(金融機関など)に相談をする

数か月分の滞納があるとなれば、容易に返すことはできないかもしれません。

そもそも、支払う余裕がないから滞納してしまっているというケースがほとんどだと思います。

支払うことが難しい場合には、債権者(金融機関など)に支払計画について、ただちに相談してください。

あくまでも、あなたは支払いが遅れている(契約を違反しかけている)身であることを念頭においてください。

まごころう
ただ一方的に「支払えません。」では、法的措置をとられておしまいです。

「○○してくれたら、××できそうなのですが、一緒に考えてもらえないでしょうか。」といった姿勢が大事です。

競売・任意売却・債務整理

財産を手放すことになりますが、どうにも支払えない場合には、

  • 競売
  • 任意売却
  • 債務整理

などによる「現金化」が必要です。

債権者に相談に行くのと同様、すこしでも早く動くのが大事です。

たとえば、任意売却の場合には、競売に比べて不動産を高く売ることができます。

動き始めるのが遅すぎると、競売によって現金化せざるを得なくなり、二束三文しか手元に残らないという結末が待っています。

家を失い、借金だけが残るということです。

消滅時効と時効援用

借金そのものにかかることですが、消滅時効と時効援用ということがあります。

いわゆる「夜逃げ」といったものですが、解説します。

当然喪失と請求喪失

当然喪失とは、約束を破った瞬間に、当然に期限の利益を喪失することです。

請求喪失とは、約束を破ったのち、債権者からの請求によって期限の利益を喪失することをいいます。

契約によってさまざまですが、

  • 自己破産や偽りの契約は、当然喪失
  • 滞納後、期限の利益の喪失通知書の指示に違反した場合は、請求喪失

といった具合です。

消滅時効

消滅時効とは、返済をしないことで成立する時効です。

すこし不思議な文面ですが、乱暴な言い方をすれば、借金を踏み倒すには、借金を支払わない(認めない)期間が一定以上必要ということです。

借金の種類によって、時効が成立するまでの期間は変わります。

5年、長ければ10年などが消滅時効の成立までの期間です。

一定の期間、支払いを一切しないことで、はじめて「消滅時効が成立」します。

時効援用

時効援用とは、成立した消滅時効を行使する意思表示です。

消滅時効は成立しただけでは効果を発揮しません。

一定の期間、支払いを一切せず、消滅時効が成立して、さらに消滅時効を行使するという意思表示をしたときに借金が消滅します。

まごころう
消滅時効の成立および時効援用では、細心の注意が必要です。

支払いをしないこともそうですが、たとえば、取引履歴を請求することでも「借金を返す意思・借金がある認識がある」とみなされることもあります。

「そんなもん知らん!認めん!」というのが消滅時効および時効援用なので、もし、手段として活用するのであれば、弁護士に相談すべきです。

期限の利益の再付与

期限の利益の再付与とは、喪失した期限の利益を復活させることです。

ただし、よほどの事情および手続きがなければ、期限の利益が再付与されることはありません。

期限の利益を喪失したあと、債権者が何も言ってこないとしても、自動的に再付与されるものではないということです。

何も言ってこないから再付与されたと思って、支払いを続けていたら、知らない間に遅延損失金を請求され続けていたといケースもあります。

権利の利益は、債務者に与えられた「最強の権利」です。

逆に言えば、債権者にとっては「最悪の権利」となります。

一度、取り上げることができた期限の利益をみすみす返すかといわれたら「?」です。

期限の利益の放棄

期限の利益は「放棄」することもできます。

民法 第136条

民法 第136条

一 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。

二 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

期限の利益の放棄について、民法 第136条に定められています。

「ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。」が重要

期限の利益は、放棄することができます。

住宅ローンを3,000万円(35年)借りていたとしても、15年目に一括返済することはできます。

しかし、返済時には「債権者の利益(つまり、金利)」を害することはできません。

たとえば、3,000万円(35年)の住宅ローンにかかる利子総額が100万円だったとします。

15年目に全額一括返済をしたとして、支払う利子総額も減るか?といえば「減らない」ということです。

債権者側が認めていれば問題ありませんが、法的には、早く返そうが「利子総額100万円」は支払いなさいということです。


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