媒介契約とは
あなた(売主)が、不動産を売りたいときに宅地建物取引業者(以下、不動産仲介業者)と結ぶ契約を「媒介契約(ばいかいけいやく)」といいます。
あなたが、不動産仲介業者と媒介契約を結ぶことによって、
「媒介契約に定めた条件で、不動産仲介業者に不動産の売却活動を任せます。」
という約束をしたことになり、不動産仲介業者は預かった不動産の営業活動を行えるようになります。

不動産を売却するときには、媒介契約がとても重要な役割を担います。
単に「不動産を預けました」というだけではなく、媒介契約は、あなたの売却活動にも大きな影響を与えます。
以下、あなたに合った媒介契約を選ぶヒントについて解説していきます。
媒介契約について最低限知っておくべきこと
媒介契約について最低限知っておくべきことを解説します。
媒介契約標準約款(国土交通省規定)について
媒介契約には、「媒介契約標準約款」が用意されています。
媒介契約標準約款は、国土交通省が宅地建物取引業法の規定に基づいて作成した「媒介契約のお手本」です。
全国の宅地建物取引業者は、原則として、媒介契約標準約款をベースにして各々が媒介契約を用意します。

一般消費者の保護を目的としているので、あなたにとってかなり重要なものです。
あまりにも媒介契約標準約款を無視している悪質な不動産仲介業者と媒介契約を結んでしまった場合、媒介契約標準約款を基準にして契約内容が無効と判断されることもあります。
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媒介契約を締結する場所について
媒介契約を結ぶ場所は、「どこでも」問題ありません。
一般的には、
- あなたの自宅
- 不動産仲介業者の事務所
などが選ばれますが、喫茶店であっても契約は有効に働きます。

媒介契約と違い、宅建業者が「売主」となる不動産売買契約を結ぶ場合には、
- 契約者(売主および買主)の自宅
- 不動産業者(宅地建物取引業者)の事務所
など、「契約者が落ち着いて判断を行える場所」が選ばれます。
8種制限(宅建業法の規定)によるクーリングオフ制度の活用を限定するためです。
ただし、8種制限は、売主が「宅地建物取引業者」である場合に、買主を保護するための決まりです。
ですので、あなたが媒介契約を結ぶときには、8種制限によるクーリングオフの概念はないので注意してください。
媒介契約に使用する印鑑について
媒介契約を結ぶときに使う印鑑は「認印」です。
間違っても、
- 実印
- 銀行印
など、大事な印鑑を使わないようにしてください。

媒介契約を結ぶときに「実印」を求める不動産仲介業者がいます。
「媒介契約も立派な契約なので、実印がふさわしいです!」などと言うようですが、ありえません。
実印とは、印鑑証明に登録されている印鑑であり、
- 車のローンを組むこと
- 連帯保証人になること
など、さまざまなことに悪用ができます。
ちょっとした工夫により「複写(および転写)」もできてしまうので、気をつけてください。
ココに注意
まともな不動産仲介業者であれば、数え切れないほど媒介契約を結ぶので、「立派な契約!」などとは考えていません。
もしも、実印を求められた場合には、経験が薄い不動産仲介業者と考えられるので、避けたほうが無難かもしれません。
媒介契約の種類
媒介契約には、
- 一般媒介契約
- 専任媒介契約
- 専属専任媒介契約
があります。
以降の章では、
- 各媒介契約の共通点
- 各媒介契約の相違点
について解説します。

後述する媒介契約の選び方にも繋がるので、あなたが知らない項目は、事前に確認しておいてください。
各媒介契約の共通点には「消費者保護のために重要なこと」が多く記載されています。
たとえば、
- 媒介契約の解除
- 媒介契約の違約金
- 媒介契約の約定報酬(仲介手数料)
- 直接取引および自己発見取引の扱い
などです。
各媒介契約の相違点は、「あなたの不動産を売却するために重要なこと」が多く記載されています。
目的が分かれますので、どちらとも大切に扱ってください。
ココがポイント
媒介契約の共通点には「消費者保護のために重要なこと」が多く記載されている。
媒介契約の相違点には「あなたの不動産を売却するために重要なこと」が多く記載されている。
各媒介契約の共通点
各媒介契約の共通点について、
- 不動産仲介業者に課される内容
- 売主(依頼者)に課される内容
- 契約をした双方に課される内容
にわけて解説します。
不動産仲介業者に課される内容
不動産仲介業者に課される内容は、
- 不動産売買契約の成立に向けて積極的に努力する義務
- 不動産売買契約成立時に重要事項説明を行う義務
- 不動産売買契約成立時に不動産売買契約書を作成する義務
- 目的物件の引き渡しにかかる事務の補助を行う義務
- 目的物件の売買価格および評価額について意見を述べるときの義務
- 売主(依頼者)に媒介価格の変更を提案するときの義務
です。
不動産売買契約の成立に向けて積極的に努力する義務
当然ですが、媒介契約を結んだからには、不動産仲介業者には、不動産売買契約の成立に向けて積極的に努力する義務が課せられます。

本規程により、不動産売買契約の成立に向けて積極的な努力が認められない場合には、解除事由に該当することになります。
不動産仲介業者がしっかりと仕事をしているかどうか、定期的に確認するようにしましょう。
不動産売買契約成立時に重要事項説明を行う義務
媒介契約を結んだ不動産仲介業者によって、不動産売買契約が成立した場合には、当該の不動産仲介業者に重要事項説明を行う義務が課されます。

重要事項説明とは、不動産売買契約に関する重要な事項を、事前に契約当事者(売主および買主)に説明することです。
不動産売買契約成立時に不動産売買契約書を作成する義務
媒介契約を結んだ不動産仲介業者によって、不動産売買契約が成立した場合には、当該の不動産仲介業者に不動産売買契約書を作成する義務が課されます。

不動産売買契約書のことを、宅地建物取引業法第37条の書面ということがあります。
目的物件の引き渡しにかかる事務の補助を行う義務
媒介契約を結んだ不動産仲介業者によって、不動産売買契約が成立した場合には、当該の不動産仲介業者に目的物件の引き渡しにかかる事務の補助を行う義務が課されます。

不動産売買契約を結んだ場合、あなたの不動産を買主に引き渡すまでに、
- 各種不動産の登記
- 不動産売買代金の決済
などを行います。
目的物件の引き渡しに関する手続き全般を手伝い、取引が完了するまでしっかりと仕事をしなさいということです。
目的物件の売買価格および評価額について意見を述べるときの義務
媒介契約を結んぶときには、
- あなたの不動産の評価額(つまり、査定価格)
- あなたの不動産の売買価格(つまり、売出価格)
を、不動産仲介業者が提示し、協議して決定します。
不動産仲介業者が、これらの価格を提示するときには、理由を提示する義務が課されます。

査定価格などを提示する場合には、
- 現在の市場価格
- 過去の取引事例
など、しっかりとした根拠を提示しなければいけないということです。
売主(依頼者)に媒介価格の変更を提案するときの義務
媒介契約を結んだあとに、不動産仲介業者から目的物件の媒介価格(売出価格)の変更を提案するときには、根拠を提示する義務が課されます。

状況によりますが、
- 媒介価格(売出価格)を引き上げるとき
- 媒介価格(売出価格)を引き下げるとき
の双方で、根拠を提示する必要があります。
売主(依頼者)に課される内容
売主(依頼者)に課される内容は、
- 媒介契約の一方的な解除が認められるケース
- 売主(依頼者)の特別依頼にかかる費用の取り扱い
- 不動産仲介業者に媒介価格の変更を提案するときの義務
- 不動産仲介業者を排除して、直接取引をしたときの取り扱い
- 自ら発見した相手方と不動産売買契約を締結したときの違約金
- 不動産仲介業者の責めに帰すことができない事由によって媒介契約を解除したときの違約金
です。
媒介契約の一方的な解除が認められるケース
売主(依頼者)から媒介契約の一方的な解除が認められるのは、
- 不動産仲介業者が、媒介契約にかかる業務について、信義則に反し、誠実に遂行する義務を怠ったとき
- 不動産仲介業者が、媒介契約にかかる重要な事項について、故意または重過失により、事実を告げず、または不実のことを告げたとき
- 不動産仲介業者が、宅地建物取引業に関して不正または著しく不当な行為をしたとき
に限られます。

上記に限られるとしましたが、実際にはかなり範囲が広いです。
たとえば、
- ほかの物件に比べて、明らかに資料作成のために収集された情報(写真など)が少なく、営業活動に力を入れていないと認められるとき
- 物件に問い合わせがあったが、囲い込みを目的として、「すでに交渉相手がいる」など嘘を告げたとき
- 指定流通機構(レインズ)に登録したとみせかけて、実際には登録をしていなかったとき
などが挙げられます。
売主(依頼者)の特別依頼にかかる費用の取り扱い
あなたから特別依頼をして、
- 広告を掲載したとき
- 出張調査を依頼したとき
など、不動産仲介業者の通常の業務の範囲を超える特別の依頼を行なった場合には、特別依頼にかかる費用(実費)を負担する義務があります。

広告についてですが、
- ポスティングのチラシ作成
- 普段から使っている不動産ポータルサイトへの掲載
- 普段から使っている雑誌への掲載
などは、特別の依頼には該当しない可能性が高いです。
(※当然、ポスティングなどにかかる人件費も該当しない)
あなたから特別に依頼をして看板を作ってもらったときなどを意味しています。
不動産仲介業者に媒介価格の変更を提案するときの義務
あなたから不動産仲介業者に媒介価格(売出価格)の変更をしたいときには、不動産仲介業者の承諾が必要です。
ただし、不動産仲介業者が提案を拒否する場合には、拒否する根拠を提示する義務が課されます。
不動産仲介業者を排除して、直接取引をしたときの取り扱い
あなたが、
- 媒介契約の有効期間内
- 媒介契約の有効期間の満了後2年以内
のいずれかにおいて、不動産仲介業者の紹介によって知った相手と、不動産仲介業者を排除して不動産売買契約を結んだときには、不動産売買契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬が請求されます。

約定報酬(仲介手数料)の支払いを避けようと、媒介契約を解除して、不動産売買契約を結ぶような信義則に反する行為はしてはいけないということです。
ココに注意
「直接取引」と「自己発見取引」は別物です。
自ら発見した相手方と不動産売買契約を締結したときの違約金
あなたが、
- 知人への紹介
- 知人からの紹介
などによって、自ら発見した相手方と不動産売買契約を締結したときには、不動産仲介業者から違約金を請求される可能性があります。
ただし、媒介契約の履行のために要した費用についてのみで、約定報酬(仲介手数料)の額を超えてはいけないと定められています。

自己発見取引に至るまでの間にも、不動産仲介業者は営業活動を行なっています。
不動産仲介業者によって不動産売買契約までは至らかなったものの、営業活動を行なっていたので、広告費などは支払いましょうねという話です。
不動産仲介業者の責めに帰すことができない事由によって媒介契約を解除したときの違約金
あなたが、
- 親戚に相談した結果、やはり売ることをやめた
- 息子が結婚したので、売らずに使わせることにした
など、不動産仲介業者の責めに帰すことができない事由によって媒介契約を解除したときには、不動産仲介業者から違約金を請求される可能性があります。
ただし、媒介契約の履行のために要した費用についてのみで、約定報酬(仲介手数料)の額を超えてはいけないと定められています。

自己発見取引と同じように、不動産業者が行なった営業活動には一定の配慮をしますということです。
契約をした双方に課される内容
契約をした双方に課される内容は、
- 媒介契約の有効期間
- 媒介契約の更新方法
- 媒介契約の自動更新
- 媒介契約が更新されたときの契約内容
- 媒介契約の解除方法
- 媒介契約に定めた特約の取り扱い
- 約定報酬(仲介手数料)の上限額の定め
- 約定報酬(仲介手数料)の受領の時期の定め
- 融資特約付き不動産売買契約が解除されたときの約定報酬(仲介手数料)
です。
媒介契約の有効期間
媒介契約の有効期間は、3ヶ月を超えない範囲で、
- 売主(依頼者)
- 不動産仲介業者
が協議して、定めることとされています。

一般媒介契約には、期間の定めがないと考えている不動産仲介業者がいます。
確かに、法律上の制限はありません。
しかし、媒介契約標準約款では、一般媒介契約であっても「3ヶ月を超えない範囲でなら、勝手に決めていいよ」としか述べていません。
ココに注意
どの媒介契約であっても、媒介契約の有効期間は「3ヶ月を超えない範囲」でしか決められない。
「期限の定めなし」は無効であり、媒介契約標準約款によって「契約締結の日から3ヶ月」が有効になる。
媒介契約の更新方法
媒介契約の更新は、
- 売主(依頼者)
- 不動産仲介業者
の合意に基づき可能です。
更新をするときには、あなたから不動産仲介業者に対して文書により更新の旨を申し出ることと定められています。

実務レベルでは、不動産仲介業者から
「そろそろ更新が近いですが、どうしますか〜?」
といった電話がかかってきて、同意をして更新という流れがよくあります。
厳密には違反です。
ココに注意
売主(依頼者)から文書により申し出るとされているが、売主(依頼者)が文書を作成する義務はない。
なので、不動産仲介業者が作成した文書にサインをするだけでも契約の更新は有効に成立する。
媒介契約の自動更新
すべての媒介契約において、自動更新は認められていません。

媒介契約の契約期間と同じように、一般媒介契約であれば自動更新をできると考えている不動産仲介業者がいます。
できません。
ココに注意
どの媒介契約であっても「自動更新」は認められていない。
媒介契約が更新されたときの契約内容
媒介契約が更新されたときには、更新時に特別に定めがなければ、従前の契約内容が引き継がれます。
媒介契約の解除方法
媒介契約は、
- 依頼者(売主)
- 不動産仲介業者
の双方が、相手方が媒介契約に定める義務の履行に関して、媒介契約に定めた内容を履行しない場合には、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときには、解除できるとしています。

不動産仲介業者の怠慢はもちろんですが、あなたの怠慢により契約を解除されることもあります。
たとえば、媒介契約を結んでから1ヶ月以内に空室にするといった約束をしている場合に、約束を守らなければ、不動産仲介業者から媒介契約を解除されることがあります。
媒介契約に定めた特約の取り扱い
媒介契約には、
- 売主(依頼者)
- 不動産仲介業者
が協議して、特約を定めることができます。
ただし、売主(依頼者)に不利な内容は無効となります。

たとえば、
- 媒介契約を結んでから1ヶ月以内に空室にしなかった場合、違約金として金○○万円を支払う
- 媒介契約を結んでから3ヶ月以内に成約しなかった場合、不動産仲介業者に当該物件を売却する
などといった特約です。
約定報酬(仲介手数料)の上限額の定め
約定報酬(仲介手数料)の上限額は、国土交通省告示に定める限度額の範囲内と定められています。

たとえば、3,000万円で成約した場合には、あなたが支払う約定報酬(仲介手数料)の上限額は、
3,000万円 × 3% + 6万円 = 96万円(税別)
です。
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約定報酬(仲介手数料)の受領の時期の定め
約定報酬(仲介手数料)の受領の時期は、不動産売買契約が成立し、不動産売買契約書を交付したあとです。

実務レベルでは、
- 不動産売買契約の成立時:約定報酬(仲介手数料)の半額
- 目的物件の決済引渡し時:約定報酬(仲介手数料)の残額
を支払うのが一般的です。
ココに注意
不動産売買契約が成立し、不動産売買契約書を交付したときに、約定報酬(仲介手数料)を全額請求されても違法ではありません。
融資特約付き不動産売買契約が解除されたときの約定報酬(仲介手数料)
融資特約付き不動産売買契約が成立し、不動産売買契約書が交付されたときに、約定報酬(仲介手数料)を支払っていたとします。
融資特約付き不動産売買契約が成立するためには、買主の融資が承認される必要があります。
しかし、融資が不承認となり、契約が解除されたときには、不動産仲介業者は、遅滞なく、受領した約定報酬の全額を返還しなければいけません。
ただし、すでに支払っていた約定報酬(仲介手数料)には、利息は付さないので注意してください。
各媒介契約の相違点
以下は、各媒介契約の相違点をまとめたものです。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
業務処理状況の報告義務 | なし | あり (2週間に1回以上) |
あり (1週間に1回以上) |
指定流通機構(レインズ)への登録義務 | なし | あり (媒介契約締結日の翌日から7日以内) |
あり (媒介契約締結日の翌日から5日以内) |
複数の不動産仲介業者との契約 | 可能 | 不可能 | 不可能 |
自己発見取引の可否 | 可能 | 可能 | 不可能 |