不動産屋さんと話をしていると「謄本ありますか?」とか、「登記ありますか?」と聞かれることがあります。正しくは「登記事項証明書」または「登記簿謄本」といいます。では、「登記事項証明書と登記簿謄本は同じものか?」というと、違うものです。
この記事では、登記事項証明書と登記簿謄本の違いについて解説します。また、全部事項要約書や一部事項証明書など、登記関連でややこしい書類の違いについても解説します。ちょっとした違いですが、混乱を避けるためにもはっきりさせておきましょう。
【この記事からわかること】
- 登記事項証明書と登記簿の違い
- 謄本と抄本とは
- 全部と一部とは
- ブックシステムとコンピュータシステム化について
- 閲覧と要約書について
- 登記情報提供サービスについて
登記簿
まずは登記簿について解説します。ひとくちに登記簿といっても、商号登記簿や株式会社登記簿などいろいろな種類がありますが、今回解説するのは「不動産登記簿」と呼ばれるものです。
ブックシステムと登記簿
昭和63年に行われた不動産登記法の改正以前、日本では、不動産に関する公的な情報は、すべて紙に記録されていました。不動産に関する公的な情報を記録していた紙の本(帳簿)のことを登記簿といいます。そして、紙に記録されていた頃のシステムを「ブックシステム」と呼びます。
ブックシステムの頃には、追記事項やちょっとした加筆事項があると、登記簿の余白にメモ程度に書くだけのこともありました。年配の不動産屋さんと話をすると「耳を読む」などという表現をします。このような管理をしていたため、ブックシステムの頃の登記簿は記録の漏れも起こりますし、経年劣化や破れによる消失もありました。
登記簿謄本
登記簿謄本ですが、登記簿と謄本(とうほん)がくっついている言葉です。登記簿とは「昭和63年以前のブックシステムによる不動産の登記記録(紙媒体)」でした。謄本とは、今でいうコピーのことで、「まるまるすべてのコピー」という意味です。
ですので、登記簿謄本とは、特定の不動産に関する登記簿(帳簿)すべてのコピーをいいます。非常に古い資料をコピーしているので、可読性はよくありません。また、部分的に情報が消失していることもあります。
登記簿抄本
登記簿抄本ですが、登記簿と抄本(しょうほん)がくっついている言葉です。抄本とは、同じくコピーを意味するのですが「一部のコピー」です。ですので、登記簿抄本とは、必要な情報だけを抜き取ってコピーしたものをいいます。
謄本・抄本は、公的な書類
謄本・抄本のことを、コピーと説明しました。しかし、「原本をコンビニでコピーしても謄本・抄本か?」というと、違います。謄本・抄本といわれるものには、必ず公的機関からの印鑑などが押印されます。
公的機関からの印鑑などがあるかどうかは重要なことです。市役所などに調査に行くと担当者から「コピーはできますが、印鑑は押せません」などということを言われることがあります。市役所からすると、押印がない書類は正式な書類ではなく、その書類の内容について市役所は責任を持ちませんということを意味します。
登記事項証明書
登記事項証明書について解説します。登記簿と登記事項証明書は、ほぼ同じものです。ですが、若干の違いがあるので確認します。
コンピュータシステム化
昭和63年の不動産登記法改正以前、登記記録はブックシステムによって管理されていました。しかし、ブックシステムでは経年劣化など様々なトラブルを招いたり、金銭的コストや時間的コストがかかるといったデメリットがありました。それらを解決するために導入に至ったのがコンピュータシステム化です。
難しい表現を使っていますが、電子書籍と同じです。登記記録がデータ化したことによって、様々なコストが削減され、劣化の心配もなくなりました。なによりも大きなメリットは、日本のどこからでも、欲しい情報に瞬時にアクセスできるようになったことです。
コンピュータシステム化では、登記簿に記録されている情報を手作業によってデータ化を進めていきました。データ化された登記簿のことを「登記事項証明書」といいます。紙とデータの違いが、登記簿と登記事項証明書の違いです。
全部事項証明書と一部事項証明書
登記事項証明書の全部が出力されたものが、全部事項証明書です。その一部を出力したものが一部事項証明書です。全部事項証明書と登記簿謄本、一部事項証明書と登記簿抄本がそれぞれほぼ同じものということです。データ化したことによってコピーはできなくなったので、謄本・抄本といわずに、全部・一部とよぶことにしました。
登記簿の閲覧と登記事項要約書
ブックシステムの頃には、登記簿の閲覧という仕組みがありました。謄本や抄本などを発行してもらう必要はなく、ただ見たいときに使われていた仕組みです。持参したメモ帳などに必要な情報を書き写すことができましたが、先述したように押印はされないので、公的な証明として使うことはできませんでした。
現在は、データ化によって登記事項要約書の発行という仕組みが使われています。登記事項要約書は、メモ帳に書き写された書類と一緒で、公的な証明はされていません。要約書は、公的な証明はないが、内容は登記事項証明書とまったく同じです。
登記情報提供サービスと要約書
「まったく同じ情報であれば、登記事項証明書を発行すればいいじゃないか。」と思うかもしれません。証明書ではなく要約書を取得するメリットは、手数料です。証明書に比べて、要約書の手数料は安くなっています。
また、要約書は証明証にする必要がないので、インターネットを通じて情報の提供をすることができます。要約書の提供を行っているのが「登記情報提供サービス」です。料金を支払えば、登記情報をPDFでダウンロードできるサービスなので非常に便利です。
まとめ
登記簿は、ブックシステムの頃に管理されていた登記記録です。公的な証明付きの完全なコピーが登記簿謄本であり、部分的なコピーは登記簿抄本です。登記簿には、経年劣化や消失などのリスクがありました。
登記簿にかわって登場したのが、登記事項証明書です。紙で管理されていたものをデータ化して、電子書籍のようにしました。登記簿と登記事項証明書の違いは、データ化しているかしていないかということになります。
データ化したことによって、日本中どこからでも登記情報にアクセスすることができるようになりました。また、証明を必要としない場合には要約書の請求をすることによって、法務局などに足を運ぶことなく登記情報を入手できます。公的な書類ではないという点にだけ注意して、上手に活用しましょう。