不動産を売るとなると、売却後にいくら手元に残るのかは気になりますよね。売却後の手元資金を知るには、不動産を売却することでかかる諸費用について知る必要があります。今回は、不動産を売ったときにかかる9つの諸費用を解説します。
不動産売却にかかる費用を知ることは、手元資金の確保と売却後のライフプランにも影響します。もうひとつ重要なのは、売却価格の決定にも影響するということです。手元資金から逆算した価格は、確固たる判断指標になります。必ず計算するようにしましょう。
今回は、必要費用とケースバイケースの費用に分けて解説します。まず、必要費用を計算してから、あなたのケースに応じたオプション費用を追加していきましょう。ほぼ間違いなく訪れる「価格交渉」をいかに対応するかにも影響します。

この記事からわかること
- 不動産売却にかかる費用
- 不動産売却にかかるオプション費用
- 売却価格の判断指標・考え方
不動産売却にかかる3つの必要費用
まず、必ずかかる費用から確認していきましょう。場合によっては高額になりやすい費用もあります。確認を怠らないようにしてください。
仲介手数料
これから不動産を売却するにあたって、不動産業者に依頼する方がほとんどだと思います。不動産業者に依頼しないということは、あなたが営業や契約などすべてを行うということですが、かなり困難を極めます。「不動産契約くらいやってやれないこともないさ!」とあなたは考えるかもしれませんが、買主側が納得しないケースがほとんどでしょう。
仲介手数料についてですが、法律で決められた額(率)があります。かなり細かく決まってはいるのですが、今回は速算式といわれるものによる計算方法をご紹介します。(売買価格が400万円より小さいときには、速算式は使えません。)
仲介手数料の速算式
売買価格 × 3% + 6万円 = 仲介手数料(税抜)
上の式が、速算式です。実際に計算してみます。
今回は、売買価格が5,000万円だったとしましょう。
売買価格が5,000万円だったとき
5,000万円 × 3% + 6万円 = 150万円 + 6万円 = 156万円(税抜)
ということで、156万円が上限となります。あくまでも仲介手数料の上限であり、不動産業者は定められた額以上の仲介手数料を請求してはならないとされています。業者によっては、単純に3%のみ請求しているところなど様々です。
譲渡所得税
売買契約書の重要性について解説した記事でもお話ししましたが、不動産を売却した時には譲渡所得税の納税義務が発生します。まず、譲渡所得税の基本的な計算方法について解説します。その後、契約書があるときとないときに分けて解説します。
課税譲渡所得金額の計算式
収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用 ) – 特別控除額 = 課税譲渡所得金額
収入金額:最終的に契約した売却価格
取得費:売却した不動産を買った時の価格
譲渡費用:建物解体費用など売却にかかった費用
特別控除額:ケースごとに決められた控除額
課税譲渡所得金額:この金額に税率をかけて税額が決まる
取得費について
取得費は、売却した不動産を購入した時の価格です。この価格を確認するのに、税務署は購入時の契約書を要求してきます。購入時の契約書はないが、いくらかは覚えているという主張は通りません。契約書の有無によって、どのような違いがあるか確認します。
購入時の契約書があるとき
まず、契約書があるときですが、契約書に記載されている契約金額が取得費です。一戸建てやマンションなどの場合、土地と建物の値段が別々に記載されていることもありますが、総額が取得費です。契約の総額が、3,000万円の取引であれば、取得費は3,000万円ということになります。
購入時の契約書がないとき
対して、契約書がないときですが、「不動産を売却した額の5%」というルールが適用されます。「3,000万円で売ったのを覚えています!」と言っても認めてもらえません。売却した金額が4,000万円であったとすれば、4,000万円の5%で200万円しか取得費を認めてもらうことができません。
譲渡費用
譲渡費用とは、不動産を売るために直接かかった費用です。中古住宅として売却していたが、売れないので土地として売るためにかかった解体費用などをいいます。以下が、主な譲渡費用です。
- 不動産を売るために支払った仲介手数料
- あなたが負担する印紙税
- 立ち退き料(貸家の売却)
- 土地として売るための解体費用など
- 違約金(適用条件あり)
- 名義書換料(借地権の売却)
「リフォーム費用はどうなの?」と思われるかもしれませんが、ケースによります。売買契約を結んで、売却と同時に条件として行ったリフォームは譲渡費用になります。しかし、居住していた期間に行ったようなリフォームは認められません。
このほかにも測量費用などが譲渡費用として認められることがあります。譲渡費用に計上できるかどうかは、微妙な判断なので、不安な時は税務署に確認をしましょう。
特別控除額
特別控除適用要件 | 特別控除額 |
公共事業のための売却 (新幹線の用地買収にかかったなど) |
5,000万円 |
マイホームの売却 | 3,000万円 |
特定土地区画整理事業のための売却 (行政主体の開発行為) |
2,000万円 |
特定住宅地造成事業のための売却 (行政主体の宅地造成) |
1,500万円 |
平成21・22年に取得した日本国内の土地の売却 | 1,000万円 |
農地保有の合理化のための売却 | 800万円 |
2つ以上の適用要件を満たしているときには、合算されます。ただし、上限は5,000万円までです。
課税譲渡所得金額から課税額を計算してみる(概算)
モデルケースを使って、課税額を計算してみましょう。あくまでも、概算なので正確な額は税理士の先生に聞いてください。
モデルケース1:8,000万円で購入したマイホームを6,500万円で売却(契約書あり)
まず、収入金額は6,500万円です。また、取得費も分かっており、8,000万円となります。マイホームの売却であることから、特別控除額は3,000万円です。
譲渡費用ですが、今回は仲介手数料のみ考えます。6,500万円で売却したときには、速算式で217万800円(税込/8%)になります。不動産屋さんにおまけしてもらって、215万円だったとしましょう。
計算
収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用 ) – 特別控除額 = 課税譲渡所得金額
6,500万円 - ( 8,000万円 + 215万円 ) - 3,000万円 = マイナス4,715万円
となるので、一切税金はかかりません。
モデルケース2:8,000万円で購入したマイホームを6,500万円で売却(契約書なし)
契約書がないときにどうなるかです。先ほどの取得費は8,000万円でしたが、今回は収入金額の5%が適用されます。なので、取得費は325万円です。
計算
収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用 ) – 特別控除額 = 課税譲渡所得金額
6,500万円 - ( 325万円 + 215万円 ) - 3,000万円 = 2,960万円
となります。課税譲渡所得金額が発生してしまいました。
掛けられる税率は、物件の保有期間に応じて変わります。保有期間5年以下を短期、5年超を長期といいます。(10年超所有軽減税率の特例については無視します。)
短期譲渡所得(5年以下) | 長期譲渡所得(5年超) |
39.63%(所得税30.63% 住民税 9%) | 20.315%(所得税15.315% 住民税 5%) |
今回の取引が短期であれば、合計で1,173万円かかります。長期であれば、合計で601万円です。契約書の有無は大事ですね。
印紙税
不動産契約書を有効にするには、印紙税を収める必要があります。印紙税額は契約金額に応じて決まっているので、下の表を参考にしてください。
不動産の譲渡に関する契約書などの印紙税額表
契約書記載金額 | 不動産の譲渡に関する契約書 | 借地権の設定や譲渡に関する契約書 住宅ローンなどの金銭消費貸借契約書 |
1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
1万円以上 10万円以下 | 200円 | 200円 |
10万円超 50万円以下 | 200円 | 400円 |
50万円超 100万円以下 | 500円 | 1,000円 |
100万円超 500万円以下 | 1,000円 | 2,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 5,000円 | 10,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 10,000円 | 20,000円 |
5,000万円超 1億万円以下 | 30,000円 | 60,000円 |
1億円超 5億円以下 | 60,000円 | 100,000円 |
5億円超 10億円以下 | 160,000円 | 200,000円 |
10億円超 50億円以下 | 320,000円 | 400,000円 |
50億円超 | 480,000円 | 600,000円 |
金額の記載のないもの | 200円 | 200円 |
建築工事の請負に関する契約書の印紙税額表
契約書記載金額 | 不動産の譲渡に関する契約書 |
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上 10万円以下 | 200円 |
10万円超 50万円以下 | 200円 |
50万円超 100万円以下 | 500円 |
100万円超 500万円以下 | 1,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円超 1億万円以下 | 30,000円 |
1億円超 5億円以下 | 60,000円 |
5億円超 10億円以下 | 160,000円 |
10億円超 50億円以下 | 320,000円 |
50億円超 | 480,000円 |
金額の記載のないもの | 200円 |
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印紙税について(一覧表あり)
印紙税について解説している記事です。印紙税額の一覧表、軽減措置、課税(および不課税)文書、納税者および納付方法、過怠税などについて記載しています。
不動産売却にかかる6つのオプション費用
ケースバイケースで発生する費用について解説します。あなたのケースに応じて、どうなるかを考えてみてください。
住宅ローンなどの残債を清算する
住宅ローンを借りている場合は、残債に注意しましょう。買主に引き渡すために、抵当権を抹消する必要があります。抵当権を抹消するには残債をゼロにしなければならないので、残債の分だけ手元資金は減ります。残債については、以下の記事を参考にしてください。
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【借入・ローン】不動産の残債・残高の確認方法と重要性
不動産を売るときには、その不動産の残債について確認しなければいけません。住宅ローンなどで借入をすると、不動産に抵当権を設定します。設定された抵当権は、借入が完済されるまで登記事項証明書に記録が残り続けます。なので、残債の有無だけであれば、登記事項証明書を確認すればわかります。
今回お話しするのは、「残債の額がいくらなのか?」です。残債がゼロであれば何も心配はないのですが、残債があるときには、その額が重要になります。不動産を売ることができるのかどうかにかかわるので、必ず確認するようにしましょう。
後半では、残債を確認することの重要性についてお話します。不動産を売るときに残債の額がわかっていることが、どのような点で有利に働くのかです。販売戦略上、とても大事なことなのでしっかりと解説します。
抵当権抹消費用
さきほど述べたように、住宅ローンが残っているときには、抵当権抹消登記を行う必要があります。抵当権抹消登記を行うにあたって、司法書士の先生に依頼することになります。抵当権抹消登記の報酬は、さほど高額ではありませんが費用が発生するには代わりがありません。詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
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抵当権抹消登記とは:手続き、必要書類、費用と相場、申請書作成方法
住宅ローンが完済すると抵当権抹消登記をすることになるのが一般的です。抵当権抹消登記とは、抵当権を消す登記です。その性質上、抵当権を設定した金融機関などから許可がなければ、抵当権抹消登記を行うことはできません。
抵当権抹消登記が行えるということは、融資を完済しているので差し押さえなどのリスクは通常考えられません。なので、別にしなくてもいいのではないのか?と思う方もいるでしょう。ですが、相続や急な売却になったときに困るのが常です。
今回は、抵当権抹消登記がどういうものなのかということや、費用など知っておくべき内容を抑えつつ、注意点も説明します。これを読めば、抵当権抹消登記についてはバッチリです。
引っ越し費用
引っ越し費用ですが、閑散期と繁忙期でかなりの差が出ます。一般に5月~2月は閑散期とされ、3月・4月が繁忙期です。費用は、距離・荷物量に応じて変動しますが、繁忙期は閑散期に比べておおむね2割~3割増しになります。
距離 | 単身者 | 2人家族 | 4人家族 |
---|---|---|---|
20km前後 | およそ50,000円 | およそ60,000円 | およそ80,000円 |
50km前後 | およそ55,000円 | およそ70,000円 | およそ100,000円 |
200km前後 | およそ80,000円 | およそ100,000円 | およそ130,000円 |
300km前後 | およそ100,000円 | およそ150,000円 | およそ200,000円 |
上の表は、繁忙期の目安です。あくまでも目安なので、正確な値段を知りたいときには引っ越し業者に見積もりを依頼してください。当日~数日中に見積もりを提示してもらえるはずです。
ちなみに、一回目に提示される見積もりの額を真に受けないほうが賢明です。これは引っ越し業者にもよるのですが、最初に見積もりは高めに提示されています。引っ越し費用を少しでも安くするには、複数社の見積もりを取得することは絶対に必要なことです。複数社の見積もりを取得した後、最も安かった業者の見積もりを再提示することで値段が大幅に変わります。
クリーニング費用
売るためにハウスクリーニングをする必要がある方もいるでしょう。クロスやカーテンが黄ばんでいるときや、キッチンにしつこい油汚れがこびりついているときなど。中古不動産とはいえ、買主は新築同様の綺麗さを求めます。不動産の販売上、生活感というのは考えている以上に邪魔な存在なので、極力消すようにしましょう。
クリーニングの費用ですが、部屋数や大きさによって異なります。繁忙期・閑散期については、引っ越し業界と同じような具合です。クリーニングの費用対効果はとても高いので、多少出費になったとしても行うのをおすすめします。
クリーニングを依頼するときには、不動産業者にも相談してください。引っ越しではあまりないのですが、クリーニングの場合、不動産業者から依頼したほうが安くなることが多々あります。ただし、営業マンが怠け者だと適当な見積もりを提示されることがあるので、念のため、あなた自身でも見積もりを取得してください。
リフォーム費用
リフォームを検討している場合には、見積もりだけ取得するにとどめてください。とてもではないが見るに堪えないという状態であれば、販売開始前にリフォームをする必要がありますが、そこまでの状態ではないということであれば、契約後にリフォームをしましょう。交渉の材料として「契約するのであればリフォームします」というカードを残しておくほうが効果的です。
リフォーム費用ですが、クロスの張替くらいであれば驚くような高額にはなりません。気を付けたいのは、水回り(キッチン・バスルーム・トイレ)のリフォームです。数百万になることは普通のことです。とはいえ、和式トイレを洋式トイレにするなどは効果が期待できることも事実です。
他にも、人気のあるリフォームとして「省エネリフォーム」があります。太陽光パネルの導入など大規模なものではなく、窓を二重サッシやペアガラスに替えるといった小規模リフォームです。費用対効果が高いので、検討してみるとよいでしょう。
交渉費用
最後になりますが、不動産の売却で見落とされがちなのが「交渉費用」です。中古不動産の売買では、ほぼ間違いなく「指値」が入ります。指値とは「3,000万円では買わないけど、2,800万円なら買うよ。」といった価格交渉です。
最低でも、50万円~100万円は想定しておくべきです。立地条件などが見込み違いだったとなると、200万円の値下げ要求を飲まざるを得ないということもあります。「こんなはずじゃなかった」になりやすいところです。
まとめ
不動産の売却には、様々な費用が発生します。なかなか正確な計算が難しいので、概算でしか割り出せないこともあります。ですが、今後の売却戦略をより良いものにするには、概算だけでも把握することが重要です。
不動産の販売価格を決めるのは、あなたです。少しでも高く売ることは重要なことですが、絶対に守らなければならない価格を割り込まないことも同じくらい重要です。手元に残したい資金と総費用を足して、最低販売価格を出しておきましょう。