平成 26 年 7 月の長野県南木曽町、同年8月の広島市で発生した土砂災害は、多くの方の記憶に新しいでしょう。地震大国である日本では、土砂災害の発生件数も多く、年間500~2,000箇所で発生しています。わたしたち民間人が土砂災害に巻き込まれる危険性を最小限にするために、国土交通省では「ここは危ないよ!」という地域を指定しています。
今回の記事では、急傾斜地崩壊危険区域について解説します。どのような区域なのかについては、名前からなんとなく想像ができると思いますが、具体的な危険性などについてお話します。結論からいえば、住むのに適した地域ではありません。
また、土砂災害警戒区域などとも混同されやすいのですが、違いについて解説します。両方に指定されるケースもありますが、急傾斜地崩壊危険区域が原因であり、土砂災害警戒区域などは結果となります。共通して言えるのは、どちらもとても危険な場所であるということです。

この記事からわかること
- 急傾斜地崩壊危険区域について
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)について
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)について
急傾斜地崩壊危険区域とは
急傾斜地崩壊危険区域に指定された場所は、上の画像のような看板が設置されます。記載されている内容も、建築などを厳しく制限するものであり、急傾斜地崩壊危険区域が危険なエリアであることが分かると思います。
急傾斜地崩壊危険区域は「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」によって、その内容が定められています。
第一章 第一条
この法律は、急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護するため、急傾斜地の崩壊を防止するために必要な措置を講じ、もつて民生の安定と国土の保全とに資することを目的とする。
上記の文章は、この法律の一文目です。書かれている内容からわかる通り、土砂災害から住民の命を守るため、危険の排除を目的としている法律です。このような法律によって指定されたエリアが「安全な場所」であることはありえません。
急傾斜地崩壊危険区域の指定基準
上記は、急傾斜地崩壊危険区域の指定条件を図にしたものです。条件としては、
- 斜面(=がけ)の高さが5m以上であること
- 斜面の勾配が30度以上であること
- 原則として、被害想定区域内に5戸以上あること
とされています。
急傾斜地崩壊危険区域はお得なのか
冒頭でも述べましたが、お得ではありません。急傾斜地崩壊危険区域について、「お得ですよ!」などという業者の主張は、①地価が安いこと ②国が補強工事をしてくれるからでしょう。間違いではありませんが、結論が違います。
そもそも、地価はなぜ安いのでしょうか?ほとんどの財は、需要と供給のバランスによって価格が決まります。つまり、急傾斜地崩壊危険区域については、危険な区域なので誰も好んで住もうとはしないため、需要がないのです。
また、国が補強工事をしてくれるからお得という点ですが、普通の住宅地では補強工事をする必要がありません。補強工事と地盤改良工事を同一のものと勘違いされる方もいますが、まったく別物です。そのうえ、場合によっては、補強工事費用の一部を負担することもあります。
第二章 第九条 土地の保全等
急傾斜地崩壊危険区域内の土地の所有者、管理者又は占有者は、その土地の維持管理については、当該急傾斜地崩壊危険区域内における急傾斜地の崩壊が生じないように努めなければならない。
急傾斜地崩壊危険区域内における急傾斜地の崩壊により被害を受けるおそれのある者は、当該急傾斜地の崩壊による被害を除却し、又は軽減するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。
都道府県知事は、急傾斜地崩壊危険区域内における急傾斜地の崩壊による災害を防止するために必要があると認める場合においては、当該急傾斜地崩壊危険区域内の土地の所有者、管理者又は占有者、その土地内において制限行為を行つた者、当該急傾斜地の崩壊により被害を受けるおそれのある者等に対し、急傾斜地崩壊防止工事の施行その他の必要な措置をとることを勧告することができる。
上記は、急傾斜地崩壊危険区域の土地を「所有・管理・専有」している人に対して土地の保全などを指示している文章です。まず、土砂災害の発生を防ぐ努力(善管注意義務)をしなさいと言われています。また、十分に保全措置を行ったと思っても、行政に「いや、それじゃダメ。」と言われることもあります。
以降、改善命令の規定や、立ち入り検査の規定などが書かれています。このような土地が本当にお得でしょうか?
急傾斜地崩壊危険区域での建築
急傾斜地崩壊危険区域での建築には、さまざまな制約を受けます。とても特殊なエリアでの建築となるため、ケースごとに精査されるのが基本です。建築計画を作成してから建築指導課・土木課など、市政・県政の許可を取ることになります。
行政とのやり取りをするために、建築計画(図面など)の準備をするのが先になります。ですので、許可が下りなかった場合には、計画倒れとなることもあります。また、許可を受けられたとしても、擁壁を設置するなどの条件付きである可能性もあります。擁壁の設置は、1ブロック辺り数百万に膨らむ可能性があります。
開発行為になることがほとんどです。以下の記事も参考にしてみてください。
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市街化区域と市街化調整区域とは:開発許可、建築の確認
大規模な開発を検討していたり、地価の低い郊外で土地を探したりすると、市街化調整区域というエリアにぶつかることがあります。これは都市計画法という法律によって定められたエリアです。セットで市街化区域というエリアもあります。
市街化調整区域で何か建築しようとするときは、市町村役場で相談して許可を得る必要があります。この許可のことを開発許可といい、この許可を得ずに建築することは違法行為となります。
今回は、そもそも市街化区域・市街化調整区域とは何なのかについて説明します。開発許可と開発許可を得るにはどうするのかも一緒に説明しますので、参考にしてください。
土砂災害警戒区域・特別警戒区域とは
急傾斜地崩壊危険区域に関連して、土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域というエリアがあります。土砂災害警戒区域は、別名イエローゾーンと呼ばれます。土砂災害特別警戒区域は、別名レッドゾーンと呼ばれます。
呼び名からわかるように、土砂災害特別警戒区域のほうが、土砂災害警戒区域より危険です。これらの区域に指定された場所は、土砂崩れなどの土砂災害が発生した時に、災害に巻き込まれる危険性が高いエリアであるという意味です。ですので、地盤が緩い崖の下にある土地などが指定を受けます。
2016年2月29日の段階で、全国でのべ418,201箇所が指定を受けています。その内、262,701箇所が土砂災害特別警戒区域(=レッドゾーン)です。意外と多くの場所が指定を受けているので、土地を購入するときには必ず確認するようにしましょう。各行政がハザードマップを一般公開しているはずなので、そちらで確認してください。
急傾斜地崩壊危険区域と土砂災害警戒区域などの違い
上の図が、急傾斜地崩壊危険区域と土砂災害警戒区域などの違いを表しています。急傾斜地崩壊危険区域とは、まさに土砂災害を引き起こす原因となる区域であり、赤いエリアです。土砂災害警戒区域などは、引き起こされた土砂災害に巻き込まれる可能性が高いエリアです。
急傾斜地崩壊危険区域が、土砂災害特別警戒区域と重ねて指定を受けることはよくあることです。図からもわかるように、急傾斜地崩壊危険区域とはもっとも危険な区域です。十分に注意・検討をしましょう。
まとめ
急傾斜地崩壊危険区域とは、行政によって指定される土砂災害危険区域です。擁壁など土砂災害防止設備の設置などが行政主導で進められますが、それほど危険な場所だということです。住むのに適した環境では決してありません。
関係している区域に、土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域があります。イエローゾーン、レッドゾーンなどと呼ばれますが、急傾斜地崩壊危険区域で起きた土砂崩れなどの災害に巻き込まれる可能性が高いエリアです。各行政がハザードマップを一般公開しているので、気になる場所があるときは、確認してみましょう。