抵当権の処分(譲渡および放棄)について解説しています。
抵当権の処分(譲渡および放棄)について、
- 抵当権の譲渡
- 抵当権の放棄
- 抵当権の処分の対抗要件
- 抵当権の順位の譲渡および放棄との違い
を解説しています。
- 抵当権の譲渡
- 抵当権の放棄
- 抵当権の順位の譲渡
- 抵当権の順位の放棄
については、混乱しやすいのですが別物です。
さらに詳しく
抵当権の処分(譲渡および放棄)とは
民法第376条(抵当権の処分)
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
抵当権は処分することができます。
抵当権を処分には、
- 抵当権の譲渡
- 抵当権の放棄
のいずれかによる方法を選びます。
抵当権の処分では、
- 抵当権の譲渡
- 抵当権の放棄
いずれかの方法を選びますが、
- 処分が成立する要件(効力発生要件)
- 処分の対抗要件
は同じです。
異なるのは「弁済額の処理方法(優先順位)」です。
ココに注意
抵当権の処分によって弁済額を計算する時には、抵当権の処分に関係がない抵当権者(利害関係人)の配当額に影響を及ぼしてはいけません。
ですので、
- 抵当権の処分がなかった場合の配当額を割り出す
- 抵当権の処分に関係がない抵当権者(利害関係人)の配当額を確定させる
- 残った配当額を処分方法(譲渡および放棄)に応じて割り出す
といった流れで計算を進めてください。
抵当権の譲渡
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:一般担保権者(抵当権が設定されていない)
があり、債権者Aが債権者Cに抵当権を譲渡した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
(※弁済を受ける権利はあるが、抵当権を譲渡としているので債権者Cへの弁済が優先される。) - 債権者B:順位2位の抵当権者
(※順位および弁済額は変わらない。) - 債権者C:順位1位の抵当権者(と同義)
(※弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aが受けられる範囲内で優先的に弁済を受けることができる。)
となります。
抵当権を譲渡したときには、譲渡した抵当権者が受けることのできるはずだった利益を引き継ぐ権利を得るだけです。
抵当権の順位が変わるわけではなく、ほかの抵当権者が受けることができる利益には影響が及びません。
それゆえ、譲渡については、ほかの抵当権者(利害関係者)の同意も必要ありません。
抵当権が譲渡されたときの計算
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:一般担保権者(抵当権が設定されていない)
があり、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
であったとします。
不動産が競売により売却され、3,000万円で落札された場合、通常は、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受けことができない(2,000万円が回収できない)
となります。
しかし、債権者Aが債権者Cに抵当権を譲渡した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→弁済を受ける権利はあるが、債権者Cが優先的に弁済を受けた結果、配当額がなくなる - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aの譲渡により、1,500万円の弁済を受ける(500万円が回収できない)
となります。
抵当権が譲渡された場合、譲渡を受けた債権者は、譲渡した抵当権者が弁済を受けられる範囲内でのみ利益を得ることができます。
よって、先ほどの例では、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→弁済を受ける権利はあるが、債権者Cが優先的に弁済を受けた結果、配当額がなくなる - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,000万円の弁済を受ける(500万円が回収できない) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aの譲渡により、2,000万円の弁済を受ける(完済)
とならずに、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→弁済を受ける権利はあるが、債権者Cが優先的に弁済を受けた結果、配当額がなくなる - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aの譲渡により、1,500万円の弁済を受ける(500万円が回収できない)
となりました。
抵当権の放棄
抵当権は放棄することができます。
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:一般担保権者(抵当権が設定されていない)
があり、債権者Aが債権者Cに抵当権を放棄した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
(※弁済を受ける権利はあるが、抵当権を放棄しているので、弁済額が債権者Cと按分される。) - 債権者B:順位2位の抵当権者
(※順位および弁済額は変わらない。) - 債権者C:順位1位の抵当権者(と同義)
(※弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aの放棄により、弁済額は債権者Aと按分される。)
となります。
抵当権を放棄したときには、放棄を受けた債権者が、放棄をした抵当権者と同じ順位に着くイメージになります。
抵当権の順位が変わるわけではなく、ほかの抵当権者が受けることができる利益には影響が及びません。
それゆえ、放棄については、ほかの抵当権者(利害関係者)の同意も必要ありません。
抵当権が放棄されたときの計算
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:一般担保権者(抵当権が設定されていない)
があり、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
- 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
であったとします。
不動産が競売により売却され、3,500万円で落札された場合、通常は、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→2,000万円の弁済を受ける(完済) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受けことができない(2,000万円が回収できない)
となります。
しかし、債権者Aが債権者Cに抵当権を放棄した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利はあるが、抵当権を放棄したので、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aの放棄により、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない)
となります。
ココに注意
抵当権が放棄された場合、
- 放棄をした抵当権者
- 放棄を受けた債権者
の間で、抵当権の順位により受けることができる利益が按分されます。
よって、先ほどの例では、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→弁済を受けることができない(2,000万円が回収できない) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→2,000万円の弁済を受ける(完済)
とならずに、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利はあるが、抵当権を放棄したので、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:一般担保権者(債権額2,000万円)
→弁済を受ける権利を獲得し、債権者Aの放棄により、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない)
となりました。
抵当権の処分:対抗要件
民法第377条(抵当権の処分の対抗要件)
前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
抵当権の譲渡の対抗要件は、抵当権の譲渡を行なった者が、
- 主たる債務者に抵当権を譲渡したことを通知すること
- 主たる債務者が抵当権の譲渡を承諾すること
のいずれかによって成立します。
抵当権の譲渡を行なった者が対抗要件を成立させることで、
- 主たる債務者
- 保証人
- 抵当権設定者
- 承継人
に対抗することができるようになります。
ココに注意
あくまでも「対抗要件」です。
効力発生要件については、
- 抵当権を譲渡する者
- 抵当権を譲渡される者
に合意があり、正常に譲渡が行われた時点で満たされています。
対抗要件を満たすことで、そのほかの利害関係人とトラブルになった時に「いや、ちゃんと成立させたじゃん。」と主張ができるようになります。
主張ができないからといって、効力が生じていないわけではないことに注意しましょう。
抵当権の順位の譲渡(および放棄)との違い
抵当権の処分(譲渡および放棄)には、
- 抵当権の処分(譲渡および放棄)
- 抵当権の順位の譲渡
- 抵当権の順位の放棄
という混乱しやすい3つの概念があります。
いずれについても、
- 弁済額の処理方法(優先順位)
- 処分が成立する要件(効力発生要件)
- 処分の対抗要件
は変わりません。
違いがあるのは、
- 譲渡する人
- 譲渡される人
の立場(関係)です。
抵当権の譲渡では、
- 譲渡する人:抵当権者
- 譲渡される人:一般担保権者(抵当権者ではない)
となります。
しかし、抵当権の順位の譲渡では、
- 譲渡する人:抵当権者
- 譲渡される人:抵当権者
となります。
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