土地収用法 不動産の法律

土地収用の手続き:事業認定の告示と収用手続きの保留


土地収用事業では、大きく分けて2つの段階があります。土地収用事業そのものについて協議する段階と、実際に土地収用を進める段階です。土地収用は強い力をもつだけに、しっかりと協議されて、間違いなくものごとを進める必要があります。あとから「いや、そんなつもりではなかったんだけど」となっては絶対にいけません。

今回の記事では、事業認定の告示と収用手続きの保留について解説します。事業が認定された日が確定されたことによって、さまざまな権利や義務が発生します。また、手続きの保留は、事業の進行に大きな影響を与える手続きです。しっかりと確認しておきましょう。

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・事業認定の告示について

・収用手続きの保留について


事業認定の告示

土地収用のフローチャート

事業認定の申請について、各種手続きが滞りなく終わると、事業認定の告示が行われます。国土交通大臣または都道府県知事は、意見書の提出がなかった場合を除き、社会資本整備審議会の意見を聴き、これを尊重します。社会資本整備審議会とは、国土交通省設置法第6条に定める機関で、国土交通大臣の諮問に応じて不動産業、宅地、住宅、建築、建築士および官公庁施設に関する重要事項の調査審議などを行います。

社会資本整備審議会はさまざまな分野の専門家で構成されています。東京大学、東京工業大学、一橋大学などの教授や、フリーアナウンサーの草野 満代さん、経済評論家の勝間 和代さんらも委員に選ばれています(2015年12月28日時点)。

国土交通大臣または都道府県知事は、事業認定をしたときには、起業者に通知します。またインターネットなど一定の方法で「起業者の名称、事業の種類、起業地、事業認定をした理由、起業地を表示する図面の縦覧場所」を告示しなければいけません。事業認定の告示がなされると、その日から様々な効力が発生します。

事業認定の告示により発生する効力

事業認定の告示が行われると、以下の効力が発生します。

  • 関係人の固定
  • 土地の保全義務の発生
  • 土地物件調査権の発生
  • 収用の裁決の申請をする権利が発生
  • 補償金の支払請求権の発生
  • 土地関係の補償金の額の算定基準日の確定
  • 損失補償の制限
  • 協議の確認の申請権

ひとつひとつ確認していきます。

関係人の固定

事業認定の告示が行われると、土地収用事業の関係人が固定されます。関係人の固定とは、収用する土地の地権者とその土地について所有権以外の権利を有する者について、範囲が決められることです。事業認定の告示以降、新たに権利を取得した者は関係人に含まれることはありません。ただし、既存の権利を承継したときには関係人に含まれます。

土地の保全義務の発生

事業認定の告示後は、都道府県知事の許可を受けない限り、起業地について明らかに事業に支障を及ぼすような形質の変更をしてはいけません。知事が許可できるのは「起業者の同意がある場合」または「正当な理由に基づき必要があると認められる場合」のみです。正当な理由に基づき必要があると認められる場合とは、放っておくと災害に発展する危険性があるときなどです。

土地物件調査権の発生

事業認定の告示後には、土地調書と物件調書を作成します。事業を行うためには、土地に関する詳細な調査を欠かすことはできません。起業者または委任を受けた者は、調査のために対象の土地または土地上の工作物に立ち入って、測量・調査する権利が発生します。知事や市町村長などの許可は不要です。

収用の裁決の申請をする権利が発生

土地収用手続きのステップのひとつに「収用の裁決の申請」というものがあります。事業認定の告示が行われたときには、告示の日から1年以内に限り、起業者は、収用の裁決の申請を行うことができます。収用の裁決の申請は、収用または使用しようとする土地がある都道府県の収用委員会に対して行います。

補償金の支払請求権の発生

土地収用される側は、補償金を受け取ります。補償金の支払いには、一定の範囲内で先払い制が採用されています。事業認定の告示が行われると、土地所有者と一部の関係人は、起業者に対して補償金の支払請求をすることできるようになります。ただし、借家権者や抵当権者には認められていません。

土地関係の補償金の額の算定基準日の確定

補償金の支払請求権が発生することを解説しましたが、補償金を支払うには、補償内容の見積もりなどが必要です。不動産の価値は、時の経過によって移り変わるので、見積もりを作成するためには基準となる時点が必要になります。事業認定の告示が行われると、その日が補償金額を算定するための基準日に確定されます。

損失補償の制限

土地所有者または関係人は、事業認定の告示後に以下の行為を行う場合には、注意が必要になります。

  • 土地の形質の変更
  • 工作物の新築・改築・増築・大修繕
  • 物件の付加増置

これらの行為を都道府県知事の承認を得ずに行った場合、物件の価値が増加したとしても、増加分を請求することができなくなります。勝手にリフォームなどを行った場合には、リフォーム費用について補償されないので、リフォームによる効果を十分に受ける前に収用され、金銭的な損失のみが残るということです。

協議の確認の申請権

起業者、土地の所有者、関係人は、それぞれに様々な権利を持っています。特定の権利について取得または消滅させるために、三者間で協議が成立した場合には、起業者は収用委員会に協議の確認を申請することができます。協議の確認が完了すると、権利取得裁決および明渡裁決があったものとみなされます。

事業認定の告示後の手続き

事業認定の告示後には、2つの手続きを行う必要があります。「補償等について周知させるための措置」と「起業地を表示する図面の縦覧」です。

補償等について周知させるための措置

土地所有者や関係人にとって、収用に対する補償は大きな関心ごとのひとつです。生活を大きく左右する問題です。ですので、起業者は事業認定の告示があったときには、直ちに土地所有者および関係人が受けることのできる補償などについて、周知させるために必要な措置を講じなければならないとされています。

起業地を表示する図面の縦覧

国土交通大臣または都道府県知事は、事業を認定したら直ちに起業地がある市町村長に、その旨を通知しなければいけません。また、通知を受けた市町村長は、事業の認定が効力を失う日または土地などの取得を完了した旨の通知を受ける日まで、起業地を表示する図面を公衆の縦覧に供しなければいけません。広く一般に縦覧されなかったために、いらぬ損失を被る新たな権利者が出てくる可能性もあるので、公衆への縦覧はとても大事なことです。

事業認定の失効

以下の場合には、一度認定された事業であっても効力がなくなります。

  • 事業の認定の告示の日から1年以内に収用の裁決の申請をしないとき
  • 事業の認定の告示の日から4年以内に明渡裁決の申立てがないとき
  • 収用手続きを保留した土地について、事業認定の告示の日から3年以内に手続開始の申立てがないとき
  • 事業の廃止、変更により収用の必要がなくなったとき

事業認定の告示の日から4年以内に明渡裁決の申立てがなく、事業認定が失効した場合には、すでになされた権利取得裁決は取り消されたとみなされます。また、事業の廃止や変更により収用の必要がなくなったときには、知事への届け出が必要です。

収用手続の保留

起業者は「事業認定の申請」と同時に「収用手続の保留」を行うことが認められています。保留の手続きは、必ず事業認定の申請と同時にするものと決められています。事業認定の申請と同時に、手続保留の申立てを行ったときには、「事業認定の告示」と同時に「手続保留の告示」を行う必要があります。

手続保留の告示がなされると、起業者は都道府県知事に対して3年以内に手続開始の申立てを行わなければならないとされています。手続開始の申立て後、手続開始の告示が行われます。手続開始の告示が行われると同時に、事業認定の告示が行われたものとみなされます。

手続の保留によって、事業認定の告示の日が最大3年ずれるので、その後の様々な手続きの期限もずれていきます。なんらかの事情で、計画を先延ばしする必要があるときなどには意味のある措置です。ただし、手続が保留されていても「土地の保全義務、明渡裁決申請期間の起算、協議の確認の申請期間」については、事業認定の告示による効力が持続します。


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