土地収用の手続きは、数年の歳月をかけて行われます。ひとつひとつのステップで、土地収用を必要とする事業の正当性や、土地収用そのものの正当性について厳しく審査されます。個人・団体の今後を大きく左右する問題なので、当然の流れです。
今回の記事では、収用の裁決の申請について解説します。土地収用を行う前に、土地収用について収用委員会に審理を求める手続きです。裁判を開始するために、告訴するようなもので、いろいろな準備物を必要とする大事なステップです。
[label title="" color="green" icon="icon-ok" text="この記事からわかること" class=""]
・収用の裁決の申請について
・審理の原則などについて
収用の裁決の申請
土地収用では、実際に収用するかどうか収用委員会の裁決によって決定されます。土地収用委員の裁決とは、裁判でいうところの判決です。意見書の内容、審理結果、必要な調査の結果をふまえて収用委員会の最終的な判断が下されます。
起業者は、収用の裁決の申請を事業の認定の告示の日から1年以内に限り、収用委員会に対してすることができます。また、土地所有者と関係人(担保権者などは除く)は、起業者に対して、裁決の申請をすべきことを請求できます。ただし、土地所有者と関係人は裁決の申請を直接収用委員会にすることはできません。
裁決申請書などの送付と公告
裁決の申請を受けた収用委員会は、裁決申請書と添付書類の写しを関係市町村長に送付しなければいけません。書類を受け取った市町村長は収用しょうとする土地の区域などを公告し、広告の日から2週間その書類を公衆の縦覧に供しなければならないとされています。市町村長が一定期間内に手続きを行わないときには、都道府県知事が代わりに行うことができます。
土地所有者などの意見書の提出
土地所有者や関係人は、縦覧期間内であれば意見書を収用委員会に提出できます。意見書の内容について精査したうえで、相当の理由があるときには受理されます。
土地収用について、利害関係はあるが、土地所有者でも関係人でもない人のことを「準関係人」とよびます。例えば、土地について仮処分をした者や買戻し権を持っている者です。これらの準関係人も、収用委員会の審理が終わるまでであれば、自己の権利が影響を受ける限度において、損失補償に関する意見書を提出することができます。
収用委員会では、すでに認定された事業に対する土地収用について、正当性や妥当性を審理します。ですので、意見書では事業の認定に対する不服などは受け付けていません。
裁決手続開始の決定の公告およびその登記
収用委員会は、2週間の縦覧期間が経過した後、遅滞なく審理を開始しなければならないとされています。「遅滞なく」という表現は、「すぐに」と同じような意味合いを持ちます。また審理の開始と同じく、遅滞なく裁決手続開始の決定をし、その旨を公告するとともに、申請に係る土地を管轄する登記所に収用の裁決手続開始の登記を嘱託しなければいけません。
収用の裁決手続開始の登記を行うことによって、損失補償を請求できる権利者が確定します。収用の裁決手続開始の登記以降、登記された権利を承継した者は起業者に対抗することができません。ただし、相続などによる一般承継があったときと、裁決手続開始の登記前に登記されていた買戻権、担保権の実行などによる取得者は対抗力を持ちます。
審理
ここまで収用の裁決を開始するための手続きについて解説しました。この章では、収用の審理そのものについて解説します。審理の目的をしっかり把握しましょう。
審理の原則
審理では、3つの原則が適用されます。当事者主義の原則、審理公開の原則、書面審理の原則です。
当事者主義の原則は、事案について証拠の提出や調査などの主導権を当事者に委ねることをいいます。なので、審理する側の収用委員会は事案について積極的な調査などを基本的に行いません。当事者の申立の範囲内で裁決が行われます。
審理公開の原則により、原則として審理内容は一般に公開されるものとしています。ただし、公開したことによって、公正な審理ができなくなる恐れがあるときには非公開が認められます。また収用委員会の委員のみで行われる議決の会議は公開されません。
書面審理の原則は、原則として書面で審理を行うことです。ですので、意見書や調書などの書類をすべて揃えて審理を行います。ただし、必要に応じて口頭でも意見を述べられる口頭主義も採り入れられています。
起業者、土地所有者、関係人の意見を申し立てるとき
起業者、土地所有者、関係人が意見を申し立てるときには、いくつか取り決めがされています。以下が、取り決めの内容です。
- 裁決申請書の添付書類や提出された意見書についてこれを説明する場合に限り、新たに意見書を提出したり、口頭で意見を述べることができる。
- 損失の補償に関する事項について新たに意見書を提出したり口頭で意見を述べることができる。
- 資料の提出、鑑定人に鑑定を命ずること等を申し立てることができる。
収用委員会の対処
起業者、土地所有者、関係人が意見の申し立てを行い、その申し立てが正当または審理や調査が必要になることがあります。このとき収用委員会には、以下の対処方法が認められています。
- 起業者、所有者、関係人、参考人に出頭を命じて審問または意見書や資料の提出を命ずることができる。
- 鑑定人に鑑定を命ずることができます。土地、建物の鑑定をするときには、少なくとも1人は不動産鑑定士でなければいけません。
- 現地について土地、物件を調査することができる。
[label title="Check" color="green" icon="icon-checkbox-checked" text="鑑定人の制限" class=""]
鑑定人は、次のいずれかに該当する者であってはならない。
①起業者、土地所有者および関係人
②上記の配偶者、四親等内の親族、同居の親族など
なお、鑑定人や参考人の旅費・手当は起業者が負担します。