専任媒介契約の解除方法について解説している記事です。
専任媒介契約の解除方法について、
- 専任媒介契約の解除方法(解除の要件および流れ)
- 専任媒介契約の履行のために要した費用(実費)を請求されることがある
- 専任媒介契約の解除により違約金を請求することはできない
- 直接取引により報酬(約定仲介手数料)を請求されることがある
を解説しています。
専任媒介契約の解除方法(解除の要件および流れ)
専任媒介契約の解約方法について、
- 標準専任媒介契約 第15条の要件
- 標準専任媒介契約 第16条の要件
- 専任媒介契約を解除する流れ
の順に解説していきます。
標準専任媒介契約約款 第15条の要件:義務の履行がされないときの定め
第15条
甲又は乙が専任媒介契約に定める義務の履行に関してその本旨に従った履行をしない場合には、その相手方は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、専任媒介契約を解除することができます。
(※1 甲とは、「依頼者」を指します。)
(※2 乙とは、「依頼を受ける宅地建物取引業者」を指します。)
第15条では、専任媒介契約の解除について、
- 依頼者(売主)
- 不動産業者
の双方について、相手が契約時に約束したことを行わないときには、期限を決めて、約束を果たすように要求し、それでも果たされない場合には解除できると定めています。

たとえば、
- レインズ(指定流通機構)への登録が遅れている
- 業務処理状況の報告が遅れている
といったときには、第15条の定めを使います。
ココがポイント
契約の履行について「話が違うじゃないか!」という場合には、
- 約束と違うことを指摘する
- 約束を果たすための期間を与える
(※数日〜1週間程度)
を経たのちに、専任媒介契約を解除できます。
標準専任媒介契約約款 第16条の要件:信義則などに反する行為の定め
第16条
次のいずれかに該当する場合においては、甲は、専任媒介契約を解除することができます。
- 乙が専任媒介契約に係る業務について信義を旨とし誠実に遂行する義務に違反したとき。
- 乙が専任媒介契約に係る重要な事項について故意若しくは重過失により事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしたとき。
- 乙が宅地建物取引業に関して不正又は著しく不当な行為をしたとき。
(※1 甲とは、「依頼者」を指します。)
(※2 乙とは、「依頼を受ける宅地建物取引業者」を指します。)
第16条では、専任媒介契約を依頼者(売主)から一方的に解除することについて定めています。
専任媒介契約を依頼者(売主)から一方的に解除できるのは、
- 不動産業者が専任媒介契約に係る義務について、信義則に反する違反をしたとき
- 不動産業者が専任媒介契約に係ることについて、わざと(または重大なミスにより)事実を告げなかったとき
(※事実とは異なることを告げたときも含む) - 不動産業者が宅地建物取引業について、不正またはひどく不当な行為をしたとき
の3つです。

たとえば、
- レインズ(指定流通機構)に登録したようにみせかけて、実は登録していなかった
- 業務処理状況の報告を繰り返し忘れる
- 他人を装って問い合わせをしたところ、「交渉中です。」など、ありもしない事実を告げられた
(※「囲い込み」を狙った不実の告知) - そもそも宅地建物取引業者ではなかった
など、詐欺まがいの行為を受けたときに、第16条の定めを使います。
ココがポイント
第16条の定めに触れる場合には、依頼者(売主)から、即刻、解除を申し出ることが許されます。
専任媒介契約を解除する流れ
専任媒介契約を解除するには、
- 不動産業者に解除したいことを告げる
- 不動産業者に一定の期間を与える
(※第15条の定めによる場合) - 専任媒介契約を解除する
となります。
不動産業者に解除したいことを告げる
不動産業者に解除したいことを告げます。
基本的に、
- 電話
- 対面
によって「口頭」で伝えれば問題はありません。

不動産業者との付き合い方にもよりますが、あまり重々しくする必要はありません。
不動産業者としても揉め事にしたいとは考えていないので、「解除をしたい」と告げられれば、すんなりと引き下がるのが一般的です。
ことを荒げてしまい「悪評」が広がることの方がダメージが大きいからです。
ココに注意
相手とのトラブルが懸念される場合には「書面」による告知をした方がよいでしょう。
書面による告知を行う場合には、
- 解除の意思表示
- 解除をする理由
- 証拠の提示(ある場合)
をセットにして、Wordなどで簡単に文章を作成するだけで問題ありません。
相当に不安がある場合には「内容証明郵便」を活用するとよいでしょう。
不動産業者に一定の期間を与える(※第15条の定めによる場合)
第15条の定めにより解除を申し出る場合には、不動産業者に「相当の期間」を与えます。
相当の期間とは「義務を果たすのに必要と考えられる期間」を意味します。
たとえば、レインズ(指定流通機構)への登録であれば、1日もあれば十分に終わることなので、報告の期間を含めて「3日程度」が妥当です。
専任媒介契約を解除する
専任媒介契約を解除します。
専任媒介契約の解除について、特別な書類は用意されないのが一般的ですが、不安な場合には、簡単な書類を作成すると良いでしょう。

書面による告知をしている場合には、書類に「署名捺印」をしてもらえば手間が省けます。
専任媒介契約の履行のために要した費用(実費)を請求されることがある
第13条
- 専任媒介契約の有効期間内において、甲が自ら発見した相手方と目的物件の売買若しくは交換の契約を締結した時、又は乙の責めに帰すことができない事由によって専任媒介契約が解除された時は、乙は、甲に対して、専任媒介契約の履行のために要した費用の償還を請求することができます。
- 前項の費用の額は、約定報酬額を超えることはできません。
(※1 甲とは、「依頼者」を指します。)
(※2 乙とは、「依頼を受ける宅地建物取引業者」を指します。)
専任媒介契約を解除した場合、不動産業者は依頼者(売主)に対して、専任媒介契約の履行の為に要した費用(実費)を請求できることがあります。
専任媒介契約の履行の為に要した費用(実費)とは、
- チラシの製作費用
- フリーペーパーなどへの掲載費用
- 不動産ポータルサイトへの掲載費用
など、広告宣伝費用によるものであり、原則として「人件費」は含まれません。
さらに、不動産業者が「専任媒介契約の履行の為に要した費用(実費)」を請求できるのは、不動産業者に非がない理由により専任媒介契約が解除された場合だけです。

不動産業者に非がない理由により専任媒介契約が解除される場合とは、
- 親戚と相談して、やっぱり売るのをやめることにした
- 火事を起こしてしまい、売ることができなくなった
など、依頼者(売主)の都合によって専任媒介契約を解除するときです。
ココに注意
不動産業者に「専任媒介契約の履行の為に要した費用(実費)」を請求された場合には、
- 不動産業者に非がなかったのかどうか?
- 詳しい明細を見せてもらい妥当な請求なのかどうか?
を必ず確認してください。
専任媒介契約の解除により違約金を請求することはできない
第11条
甲は、専任媒介契約の有効期間内に、乙以外の宅地建物取引業者に目的物件の売買又は交換の媒介又は代理を依頼することはできません。甲がこれに違反し、売買又は交換の契約を成立させたときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額(この媒介に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を除きます。)の違約金の支払を請求することができます。
(※1 甲とは、「依頼者」を指します。)
(※2 乙とは、「依頼を受ける宅地建物取引業者」を指します。)
標準専任媒介契約約款 第11条では、違約金の請求について触れていますが、専任媒介契約の解除を理由として違約金を請求することについては定めがありません。
ココに注意
専任媒介契約の解除により違約金を請求することはできません。
万が一、「依頼者(売主)が専任媒介契約を解除した場合、○○万円の違約金を支払う」といった特約が定められていた場合には、特約そのものが無効である可能性が非常に高いです。
泣き寝入りすることなく、
- 宅地建物取引業協会
- 都道府県庁の担当部署
- 弁護士(法テラスなど)
に相談してください。
直接取引により報酬(約定仲介手数料)を請求されることがある
第10条
専任媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に、甲が乙の紹介によって知った相手方と乙を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、乙は、甲に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができます。
(※1 甲とは、「依頼者」を指します。)
(※2 乙とは、「依頼を受ける宅地建物取引業者」を指します。)
第10条では、直接取引に関する留意事項について定めています。
依頼者(売主)は、
- 専任媒介契約の有効期間内
- 有効期間の満了後2年以内
のいずれかにおいて、不動産業者の紹介によって知った購入希望者(買主)と、不動産業者を排除して売買契約を結んだ場合、不動産業者は依頼者(売主)に対して、契約の成立に貢献した割合に応じた報酬額(約定仲介手数料額)を請求することができます。

「専任媒介契約の解除と何が関係あるのか?」というと、
- 仲介手数料の支払いを避けるために、わざと専任媒介契約を解除したとき
- 不動産業者の責任により専任媒介契約を解除したが、すでに購入希望者(買主)が見つかっていたとき
(※不動産業者に紹介を受けた相手であることが前提です。)
などに、その後、売買契約を結んだ場合には「報酬(約定仲介手数料)」を請求される可能性があることです。
ココに注意
信義則(相手の信頼を裏切らないように行動すべきであるという法原則)を守らなければいけないのは、
- 依頼者(売主)
- 不動産業者
の双方についてです。