中古住宅の建物価値を割戻して「割高・割安」を判断する方法について解説している記事です。
中古住宅を購入するときには、比較検討がもっとも難しく、とくに建物価値がブラックボックスになります。
中古住宅の建物価値を比較するためには、
- 中古住宅の最低資産価値(土地の価格)を計算する
- 中古住宅の建物価値を計算する
- 中古住宅の建物条件について整理する
という手順を正しく行う必要があります。
シュミレーションを交えながら、どのように比較するのか解説します。
さくっと要点を知る
- 中古住宅の建物価値を比較するには、中古住宅の最低資産価値(土地の価格)を計算する必要がある
- 中古住宅の建物価値を比較するには、建物価格および建物条件を整理する
- 同じ価格の中古住宅であっても、建物価値を比較するとまったく違う結論になる
中古住宅の比較・検討
さらに詳しく
中古住宅の購入ガイドでは、
- 良い中古住宅の効率的な見つけ方
- 割安・割高をしっかりと見分ける方法
- すこしでも安く中古住宅を購入する方法
- 中古住宅にかかる全費用(購入後も含めて)
- 売却や建て替えに適した費用性の高い築年数
など、より賢く、よりお得に、中古住宅を購入する方法についてまとめています。
中古住宅の建物価値を比較する手順
中古住宅の建物価値を比較するためには、
- 中古住宅の最低資産価値(土地の価格)を計算する
- 中古住宅の建物価値を計算する
- 中古住宅の建物条件について整理する
という手順をとります。
中古住宅の最低資産価値(土地の価格)を計算する
中古住宅は、
- 土地
- 建物
によって構成されています。
中古住宅の最低資産価値を決めるのは「土地の価格」です。
建物の価値は、木造であれば築25年で急速に減少しはじめ、築35年でゼロと考えるのが一般的です。
しかし、どれだけの時間が流れても、土地の値段がゼロになることは考えにくいです。
言い換えれば、
- 土地の価値は「普遍的(多少の変動を伴う)」
- 建物の価値は「流動的(大きく変化する)」
となります。
ですので、まずは中古住宅の最低資産価値(土地の価格)を計算します。
さらに詳しく
詳しい方法については、以下の記事を参考にしてください。
中古住宅の建物価値を計算する
中古住宅の最低資産価値(土地の価格)が算出できたら、
- 土地
- 建物
を切り離して、中古住宅の建物価値を計算します。
計算は簡単で、
中古住宅の価格 - 中古住宅の最低資産価値(土地の価格) = 中古住宅の建物価値
です。
中古住宅の建物価値を計算することで、
- 別の地域にある中古住宅を比較することができる
- 建物条件の異なる中古住宅を比較する準備ができる
ようになります。
中古住宅の建物条件について整理する
中古住宅の建物価値が算出できたら、中古住宅の建物条件について整理します。
中古住宅の建物条件とは、
- 建物面積
- 築年数
- 施工業者
- 接道状況
- 間取り
- 設備
などです。
中古住宅の建物について、当初価値(新築時の価値)を比較するときには、
- 建物面積
- 築年数
- 施工業者
が重要な要素になり、建物価値を割り戻すことで、建物について割高・割安が比較できるようになります。
中古住宅の建物について、今後の費用(リフォーム費用など)を含めて比較するときには、
- 築年数
- 接道状況
- 間取り
- 設備
が重要な要素です。
実際に中古住宅の建物価値を比較してみましょう
以後、実際に中古住宅の建物価値を比較していきます。
どのようにして中古住宅の建物価値を比較するのか、参考にしてみてください。
シュミレーションに使う中古住宅について
シュミレーション では、
- 中古住宅A
- 中古住宅B
の2つを用意します。
比較したい中古住宅がいくつになっても、やることは同じですので、安心してください。
中古住宅Aの条件は、
中古住宅の価格 | 3,480万円 |
最低資産価値(土地の価格) | 1,500万円 (238.21㎡・72.05坪) |
建物価値 | 1,980万円 |
建物面積 | 108.47㎡ (32.81坪) |
築年数 | 築5年 |
施工業者 | 業者A (新築時平均坪単価65万円) |
接道状況 | 北西4m・私道 (43条但し書き道路として再建築可) |
間取り | 4LDK |
備考 | 駐車場3台分 プロパンガス 地目:畑 |
です。
中古住宅Bの条件は、
中古住宅の価格 | 3,380万円 |
最低資産価値(土地の価格) | 1,750万円 (163.45㎡・49.44坪) |
建物価値 | 1,630万円 |
建物面積 | 136.25㎡ (41.21坪) |
築年数 | 築15年 |
施工業者 | 業者B (新築時平均坪単価80万円) |
接道状況 | 北西6m・私道・位置指定有り |
間取り | 5LDK |
備考 | 駐車場2台分 都市ガス 地目:宅地 |
です。
建物価値を割り戻して、割高・割安を比較する
建物の当初価値を計算するときには、
- 建物価値
- 建物面積
- 築年数
- 施工業者
の条件を活用します。
中古住宅A・Bの条件をまとめると、
中古住宅A | 中古住宅B | |
建物価値 | 1,980万円 | 1,630万円 |
建物面積 | 108.47㎡ (32.81坪) |
136.25㎡ (41.21坪) |
築年数 | 築5年 | 築15年 |
施工業者 | 業者A (新築時平均坪単価65万円) |
業者B (新築時平均坪単価80万円) |
となります。
前提として、建物の価値は、
築年数 | 建物の価値 |
新築当初 | 建物価値:100% |
築1年 | 建物価値:80% |
築5年 | 建物価値:70% |
築10年 | 建物価値:60% |
築15年 | 建物価値:45% |
築20年 | 建物価値:30% |
築30年 | 建物価値:0% |
といった落ち方すると仮定します。
ですので、中古住宅A・Bを比較すると、
中古住宅A | 中古住宅B | |
坪単価(新築当初) | 坪単価65万円 | 坪単価80万円 |
築年数 | 築5年 (建物価値:70%) |
築15年 (建物価値:45%) |
現在坪単価(想定) | 坪単価45.5万円 (坪単価65万円 × 70%) |
坪単価36万円 (坪単価80万円 × 45%) |
建物面積 | 108.47㎡ (32.81坪) |
136.25㎡ (41.21坪) |
建物価値(想定) | 1,492.85万円 (32.81坪 × 坪単価45.5万円) |
1,483.56万円 (41.21坪 × 坪単価36万円) |
建物価値(現在) | 1,980万円 | 1,630万円 |
建物価値の比較 (割高・割安) |
24.6%割高 (1,980万円 - 1,492.85万円) ÷ 1,980万円 |
9.0%割高 (1,630万円 - 1,483.56万円) ÷ 1,630万円 |
となります。
結論としては、
- 中古住宅Aの建物価値は、割り戻し価値と比較すると、24.6%割高である
- 中古住宅Bの建物価値は、割り戻し価値と比較すると、9.0%割高である
となります。
割安であることがベストですが、物件資料を比較している段階で「割安」の物件はあまり出てきません。
値段を決めている不動産業者もプロですので、
- 妥当な建物価値を計算する
- 値引きを想定した上乗せをする
という流れで価格を決めるため、おおむね5%〜15%は割高になることが多いです。
ですので、物件資料による比較段階では「割高10%以内」であれば、値引き交渉によって適正価格で購入できる可能性が高いです。
施工業者(および新築当初坪単価)がわからなくても、逆算することに意味がある
施工業者(および新築当初坪単価)を知るには、
- 建物の登記事項証明書を取得する
- 不動産業者に問い合わせる
などの方法がありますが、必ずしも正確な数字が分かるとは限りません。
施工業者(および新築当初坪単価)が正確に分からない場合には、割り戻し価値を計算する意味がないのか?といえば「NO」です。
たとえば、中古住宅Aの施工業者(および新築当初坪単価)としても、
中古住宅A | |
坪単価(新築当初) | 坪単価?万円 |
建物価値(現在) | 1,980万円 |
築年数 | 築5年 (建物価値:70%) |
建物価値(割戻) | 2,828.57万円 (1,980万円 ÷ 70%) |
建物面積 | 108.47㎡ (32.81坪) |
適正坪単価(新築当初) | 坪単価86.21万円 (2,828.57万円 ÷ 32.81坪) |
となります。
結論としては、
- 新築当初の坪単価86.21万円以上であれば、割安
- 新築当初の坪単価86.21万円以下であれば、割高
ということになります。
仮に施工業者名(低価格ハウスメーカー)だけがわかっているのであれば、坪単価86.21万円以上の価値があるとは考えられないので、割高の可能性が濃いと結論づけられます。
中古住宅の建物について、今後の費用(リフォーム費用など)を比較する
今後の費用(リフォーム費用など)について比較をするときには、
- 築年数
- 接道状況
- 間取り
- 設備
が重要な要素になります。
大前提として「接道状況」を確認する
大前提ですが、「接道状況」には十分に注意をしてください。
一般的に、
- 前面道路の幅員6m以上
- 敷地の接道距離2m以上
が確保されていれば、増改築(および建て替え)はできると言われます。
しかし、
- 前面道路の幅員が狭すぎる
- 敷地の接道距離が短すぎる
- 土地の建ぺい率・容積率が小さすぎる
といった場合には、増改築(および建て替え)ができないことがあるので注意が必要です。
今回のケースでは、
- 中古住宅A:北西4m・私道(43条但し書き道路として再建築可)
- 中古住宅B:北西6m・私道・位置指定有り
となっているので、中古住宅Bは問題なさそうですが、中古住宅Aは危ないと言えます。
築年数とリフォーム費用(建て替えを想定)
一般的に、木造住宅は築10年を経過したあたりからリフォームをする必要が出てきます。
代表的なリフォームには、
- キッチン
- トイレ(簡易)
- トイレ(全体)
- お風呂
- 給湯器の交換
- 洗面台の交換
- 外壁塗装
- 屋根塗装
- 畳の表替え
- 畳替え
- クロスの張替え
- フローリングの張替え
などが挙げられます。
項目別に、
項目 | 耐用年数の目安 | 金額の目安 | 必要性 |
キッチン | 15年前後 | 50万円前後 | 不便がなければ、故障時のみでよい。 |
トイレ(簡易) | 5年前後 | 5万円前後 | 不便がなければ、故障時のみでよい。 |
トイレ(全体) | 15年前後 | 15万円前後 | 不便がなければ、故障時のみでよい。 |
お風呂 | 15年前後 | 100万円前後 | 不便がなければ、故障時のみでよい。 |
給湯器の交換 | 10年前後 | 20万円前後 | 不便がなければ、故障時のみでよい。 |
洗面台の交換 | 15年前後 | 10万円前後 | 不便がなければ、故障時のみでよい。 |
外壁塗装 | 10年前後 (※塗料の種類による) |
50万円前後 | 定期的に行いたい。 (※躯体に影響を及ぼすため) |
屋根塗装 | 10年前後 (※塗料の種類による) |
30万円〜50万円前後 | 定期的に行いたい。 (※躯体に影響を及ぼすため) |
畳の表替え | 5年前後 | 3万円〜5万円前後 | 美観が気にならなければ、不要。 |
畳替え | 10年前後 | 6万円〜10万円前後 | 美観が気にならなければ、不要。 |
クロスの張替え | 10年前後 | 50万円前後 | 美観が気にならなければ、不要。 |
フローリングの張替え | 15年前後 | 30万円前後 | 美観が気にならなければ、不要。 |
となります。
主要なリフォーム項目のみを抜粋すると、
- キッチン
- トイレ(全体)
- お風呂
- 給湯器の交換
- 外壁塗装
- 屋根塗装
の6つに絞られます。
築35年までのリフォーム費用を計算すると、
新築 | 築5年 | 築10年 | 築15年 | 築20年 | 築25年 | |
キッチン | 100万円 (50万円 × 2回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
0万円 (50万円 × 0回) |
0万円 (50万円 × 0回) |
トイレ(全体) | 30万円 (15万円 × 2回) |
15万円 (15万円 × 1回) |
15万円 (15万円 × 1回) |
15万円 (15万円 × 1回) |
0万円 (15万円 × 0回) |
0万円 (15万円 × 0回) |
お風呂 | 200万円 (100万円 × 2回) |
100万円 (100万円 × 1回) |
100万円 (100万円 × 1回) |
100万円 (100万円 × 1回) |
0万円 (100万円 × 0回) |
0万円 (100万円 × 0回) |
給湯器の交換 | 60万円 (20万円 × 3回) |
40万円 (20万円 × 2回) |
40万円 (20万円 × 2回) |
20万円 (20万円 × 1回) |
20万円 (20万円 × 1回) |
0万円 (20万円 × 0回) |
外壁塗装 | 150万円 (50万円 × 3回) |
100万円 (50万円 × 2回) |
100万円 (50万円 × 2回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
0万円 (50万円 × 0回) |
屋根塗装 | 150万円 (50万円 × 3回) |
100万円 (50万円 × 2回) |
100万円 (50万円 × 2回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
50万円 (50万円 × 1回) |
0万円 (50万円 × 0回) |
総費用 | 690万円 | 405万円 | 405万円 | 285万円 | 120万円 | 0万円 |
となります。
(※入居時に新品に交換していることを想定)
(※築35年で建て替えすることを想定)
ですので、
- 中古住宅A(築5年):想定リフォーム費用405万円
- 中古住宅B(築15年):想定リフォーム費用285万円
となります。
さらに詳しく
詳しくは、以下のページを参考にしてください。
総合評価
中古住宅A・Bの条件をまとめると、
大項目 | 小項目 | 中古住宅A | 中古住宅B |
土地 | 最低資産価値(土地の価格) | 1,500万円 (238.21㎡・72.05坪) |
1,750万円 (163.45㎡・49.44坪) |
接道状況 | 北西4m・私道 (43条但し書き道路として再建築可) |
北西6m・私道・位置指定有り | |
最低資産価値の確保(再販性) | やや懸念が残る | 十分に確保されている | |
建物 | 建物価値 | 1,980万円 | 1,630万円 |
建物面積 | 108.47㎡ (32.81坪) |
136.25㎡ (41.21坪) |
|
築年数 | 築5年 | 築15年 | |
施工業者 | 業者A (新築時平均坪単価65万円) |
業者B (新築時平均坪単価80万円) |
|
建物価値(想定) | 1,492.85万円 (32.81坪 × 坪単価45.5万円) |
1,483.56万円 (41.21坪 × 坪単価36万円) |
|
建物価値の比較 (割高・割安) |
24.6%割高 (1,980万円 - 1,492.85万円) ÷ 1,980万円 |
9.0%割高 (1,630万円 - 1,483.56万円) ÷ 1,630万円 |
|
リフォーム | リフォーム費用(想定) | 405万円 | 285万円 |
増改築(および建て替え)の可否 | やや懸念が残る | 十分に確保されている |
となります。
中古住宅Aの結論は、
- 土地の最低資産価値は1,500万円あるが、売れるかというと微妙
- 建物の価値は24.6%割高なので、値引き交渉をしても適正価格にするのは難しい
- リフォーム費用は405万円で、接道状況を加味すると、増改築(および建て替え)が難しい
となります。
中古住宅Bの結論は、
- 土地の最低資産価値は1,750万円あり、買い手が見つかる見込みもある
- 建物の価値は9.0%割高だが、値引き交渉によって適正価格にできる見込みがある
- リフォーム費用は285万円で、接道状況も悪くないので、増改築(および建て替え)ができる見込みがある
となります。
今回のケースでいえば、中古住宅Bは購入しても良い物件です。