結論からいえば、宅地建物取引士(以下、宅建士)ではない営業マンに不動産の売却を依頼してもよいが、トラブルに巻き込まれる可能性が飛躍的に高くなります。
より詳しい内容について、
- 宅建士ごときに合格できない営業マンが「真面目」である可能性は低い
- 不動産を売ることも大事だが、訴訟に発展させないことはもっと大事
- 宅建士ではない営業マンには、不動産取引について「責任」がない
の3トピックで解説します。
以前は、宅建士は「宅地建物取引主任者」と呼ばれ、「士業」ではありませんでした。
2015年4月1日より宅地建物取引士に変わり、士業の扱いを受けることになって以降、宅地建物取引についての責任が大幅に増大しました。
宅建士の資格を取得するためには、
- より幅広い知識
- より正しい倫理
が求められるようになったのですが、依然として、それほど取得の難しい資格ではありません。
以下、宅建士の資格と不動産の売却について解説します。
ココがポイント
- 土地
- 一戸建て
- マンション
のいずれであっても、宅建士ではない営業マンに売却を依頼できるが、あまりおすすめはできない。
宅建士ごときに合格できない営業マンが「真面目」である可能性は低い
宅建士の合格率は、だいたい15%前後で推移しています。
(※士業に切り替わってからも、それほど合格率には変化がありません。)
合格率15%と聞くと、「100人に15人だから、それなりに難しい!」と感じるかもしれませんが、間違いです。
宅建士の試験会場に行くと、
- 大学生
- 関連業界の関係者
- 不動産業界の関係者
が、受験者の大半を占めていることがわかります。
それぞれの資格取得に対する意識を分けると、
- 真面目に勉強をしてきた者:40%
- 真面目に勉強をしていない者:60%
というのが、おそらくリアルな比率です。
わたしが取得したときも合格率は15%前後でした。
予備校には通わず、独学のみで合格しましたが、試験勉強に要した期間は3ヶ月弱です。
50点満点の試験ですが、合格基準点よりも6点ほど上だったと思います。
何が言いたいかというと「真面目にやっていれば、合格基準点くらい取れないわけがない試験だ」ということです。
なぜ真面目に受けている人が少ないのか?
不動産業界に勤めていると、
- 宅建士の資格は持っていてるのが当たり前
- 宅建士の資格を取得して、スタートライン
- 宅建士の資格を取得すれば、資格手当がつく
など、経営者(および有資格者の同僚)からプレッシャーがかかります。
(※無資格者は劣等感に悩むことさえあります。)
その結果、ほとんどの無資格者が、「経営陣からの圧力に耐えかねて」予備校に通い始めます。
(※会社によっては、予備校費用を一部負担すると後押しするケースもある。)
あくまでも、わたしの観測範囲(自社および出入りのある業者)ですが、
- 「せっかくだから、絶対に合格してやる!」という意志の強い人:20%
- 「うわ、今日予備校じゃん。課題してないし。」という意志の弱い人:80%
です。
すこし大げさに聞こえるかもしれませんが、事実です。
また、はじめに、
- 真面目に勉強をしてきた者:40%
- 真面目に勉強をしていない者:60%
としたのは、
- 大学生は、しっかり勉強をしていることが多い
(※彼らにとっては安くない受験料を支払い、就職を意識しているため) - 関連業界の関係者は、しっかり勉強をしていることが多い
(※直接関係がないが、キャリアアップなどを意識しての受験者が多いため) - もしかしたら、不動産業界全体ではもう少し勉強をしているかもしれない
(※正直、あまり期待はしてませんが)
という3点を加味してです。
宅建士の合格率は、本質的には「およそ40%」ある
すこし甘めの見積もりですが、
- 真面目に勉強をしてきた者:40%
- 真面目に勉強をしていない者:60%
であった場合、100人のうち、真面目に勉強をしてきたライバルは40人まで絞られます。
合格者は15人ですから、
15人(合格者数) ÷ 40人(実質受験者数) = 37.5%(合格率)
となり、本質的には合格率およそ40%もあることがわかります。
不動産業界に勤めている人には厳しい言い方になるかもしれません。
しかし、一般消費者の目線で考えれば「宅建士の資格くらいは持っていてほしい」といえます。
宅建士の資格を持っていることは「最低限のプロ意識があることの証明」に他ならないわけです。
合格率およそ40%もある資格を持っていない人に、大切な不動産を預けたいでしょうか?
当日の試験会場を覗いてみてもいいでしょう。
試験直前にも関わらず、喫煙所でタバコを吸いながら「マークシートだから運で一発逆転できる!」とか笑い話をしている者が掃いて捨てるほど見つかるでしょう。
ココがポイント
宅建士の資格を持っているかどうかで「最低限のプロ意識があるかどうか」がわかる。
不動産を売ることも大事だが、訴訟に発展させないことはもっと大事
宅建士の資格を持っていなくても「売れる営業マン」は存在します。
単純な話ですが、
- 売れる営業に求められる技術
- 宅建士の取得に求められる技術
は、ほとんど関係がないからです。
営業に求められる技術として、宅建士を取得したことで得られるのは「言葉の説得力が増す」くらいのものです。
ですので、宅建士の資格を持っていない営業マンに不動産の売却を依頼してもよいのか?という質問に対しては「YES」と答えます。
しかし、宅建士の資格を持っていない営業マンに不動産の売却を依頼しても安心なのか?という質問に対しては「NO」と答えます。
売れる営業マンは、商談成立への嗅覚がたいへんに優れています。
彼らは、
- 夫を押すべきか、妻を押すべきか?もしくは、親か?
- 何を気にしていて、何を隠すべきなのか?
- いくらか値引きをすれば、勝手に落とし所を見つけてくれる段階か?
など、契約を成立させるための駆け引きには、かなりの強さを発揮します。
しかし、宅建士の資格とはまったく関係のないことだということを忘れないでください。
ココがポイント
不動産を売るために宅建士であることが必要なのではなく、不動産を扱うために宅建士であることが必要である。
宅建士ではない営業マンは、不動産トラブルの嗅覚が潰れている
宅建士を取得するためには、
- 民法(かなり初歩的な内容)
- 不動産に関する行政法規(比較的、詳しい内容)
- 宅地建物取引業法(かなり詳しい内容)
を学習する必要があります。
各教科が実務において果たす役割は、
- 民法
→ 契約前後のトラブルを察知して、適切に処理する能力 - 不動産に関する行政法規
→ 不動産の調査を適切に行い、問題解決などに役立てる能力 - 宅地建物取引業法
→ 消費者保護の観点から、宅地建物取引業者として正しい倫理に基づいた行動をとる能力
となります。
どの技術をとっても、営業にはほとんど関係がないことがわかると思います。
しかし、不動産の実務家としては「絶対に欠かすことができない技術」であることもわかるでしょう。
宅建士ではない営業マンは、実務レベルで必須ともいえる技術が欠落しているので、
- 目の前にトラブルの種が散らばっていても気付かない
- トラブルの種を拾っても、よくわからずに花を咲かす
といったウルトラCを平気でやってのけます。
たとえば、
- 宅建士の資格を持っている新人社員(2年目前後)
- 宅建士の資格を持っていない中堅社員(5年目前後)
がいたとすると、正直な話、宅建士の資格を持っている新人社員の方が使えます。
(※あくまで「補佐役」として。)
たとえば、預かった不動産について、役所での調査を任せることがありますが、
- 宅建士:調査内容および結果をみて、自己判断でより深い調査を完了させることができる
- 非宅建士:調査内容および結果をみても、それ以上の何かを察知することができない
といった明らかな違いがあり、非宅建士は、もともとの知識がないので、あらゆることに嗅覚が働きません。
「売れればいいや」といった考えで、あなたと営業マンが突っ走ると「訴訟」という結果を引き寄せることがあるのです。
ココがポイント
あなたの目的は「不動産を売ること」だけでしょうか?
「不動産を安心して売ること」ではありませんか?
宅建士ではない営業マンは、不動産取引について「責任」がない
宅建士には独占業務があり、
- 重要事項の説明
- 重要事項説明書への記名・押印
- 37条書面(契約書)への記名・押印
は、法律によって宅建士だけにしかできない業務と定められています。
つまり、
- 売主および買主への重要事項説明を適切に行う説明責任がある者
- 売主および買主に対して重要事項説明書で責任の所在を明確にする者
- 売主および買主に対して37条書面(契約書)で説明の所在を明確にする者
には、宅建士しかなれないということです。
ですので、宅建士ではない営業マンは契約に至りそうな段階で、宅建士の資格を持つ者に、
- 重要事項の説明
- 重要事項説明書への記名・押印
- 37条書面(契約書)への記名・押印
を依頼し、引き受けてもらわなければ契約ができません。
万が一、契約後にトラブルに発展した場合、
- あなた(売主)
- 宅建士ではない営業マン
- 宅建士で独占業務を担当した者
- 宅地建物取引業者
のいずれかが責任を追求されます。
たとえ、宅建士ではない営業マンが起こしたトラブルであったとしても、故意または重過失(要はわざと)でなければ、
- 宅建士ではない営業マン
- 宅地建物取引業者
が責任を追求される可能性が高く、揉めることが容易に想像できるかと思います。
宅建士ではない営業マンに任せると、契約直前に破談になるリスクも高い
宅建士ではない営業マンが、あの手この手を尽くして、無理やり契約直前までこぎつけたとしましょう。
最後には、宅建士である誰かに独占業務の手伝いを依頼するわけですが、当然、他人の契約には慎重になります。
宅建士が独自に調査をするのは当たり前ですが、調査をした結果、問題が見つかった場合、関係者に確認を取ります。
すべてについてクリアにならない限り、独占業務の遂行には着手しませんし、事実を聞いて破談になることもあります。
社内の宅建士が「あの人の案件にだけは関わりたくない」と話していることもあります。
不動産トラブルなので、巻き込まれれば高額訴訟になることも十分に考えられます。
宅建士ではない営業マンに売却を依頼することは可能ですが、あえて選ぶ理由は何もないはずです。