中古住宅の購入における「申し込み(買付証明)」の重要性について解説している記事です。
中古住宅を購入するときには、申し込み(買付証明)をほぼ必ず発行します。
申し込み(買付証明)によって、
- 売主との具体的な交渉段階に入る
- 中古住宅の仮押さえが完了する
ことになるのですが、注意すべきことが多くあります。
交渉を進めていくためにも、悪質業者に騙されないためにも重要な意味を持つ書類なので、性質についてしっかりと理解をしておきましょう。
さくっと要点を知る
- 中古住宅を購入するときには、ほぼ必ず「申し込み(買付証明)」を発行する
- 中古住宅の値引き交渉では、買付条件が重要な意味を持つ(指値交渉)
- 安易な値引き交渉を持ちかけることは、あなた(買主)にとってデメリットしかない
- 申し込み(買付証明)を発行したことで「契約成立」とはならない
- 申し込み(買付証明)発行時に支払う「申込金」は、撤回時に返金されるべきお金
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中古住宅の購入ガイドでは、
- 良い中古住宅の効率的な見つけ方
- 割安・割高をしっかりと見分ける方法
- すこしでも安く中古住宅を購入する方法
- 中古住宅にかかる全費用(購入後も含めて)
- 売却や建て替えに適した費用性の高い築年数
など、より賢く、よりお得に、中古住宅を購入する方法についてまとめています。
申し込み(買付証明)の意義
中古住宅を購入するときには、ほぼ必ず「申し込み(買付証明」を行います。
中古住宅を購入するときには、
- 中古住宅を確認する
- 中古住宅を検討する
- 中古住宅の申し込み(買付証明)を発行する
- 中古住宅を契約する
- 中古住宅の引き渡しを受ける
という流れになります。
申し込み(買付証明)の意義は、売主に対して「以下の条件で中古住宅を購入する意思があります」ということを伝えることです。
申し込み(買付証明)を発行することで、
- 売主との具体的な交渉段階に入る
- 中古住宅の仮押さえが完了する
ことになります。
申し込み(買付証明)と指値交渉
通常、申し込み(買付証明)には、
- 物件所在地
- 物件詳細(土地・建物の面積など)
- 買付人情報(あなたの個人情報)
- 発行の日付
- 買付条件
などが記載されます。
中古住宅を購入する側からすると「買付条件」がとても重要なところで、
- ローン特約(住宅ローンの審査などに関する特約)
- 値引き交渉の額
- その他、個別的な条件
が記載されることになります。
申し込み(買付証明)の買付条件で値引き交渉を行う場合には、「指値交渉」を行うのが一般的です。
指値交渉とは、金額を指定して行う交渉です。
たとえば、売値4,000万円の中古住宅であれば、3,500万円であれば買いますという具合です。
中古住宅の値引きを行う場合には、申し込み(買付証明)による指値交渉が大原則であり、安易な値引き交渉は歓迎されません。
なぜ「安易な値引き交渉」は歓迎されないのか?
たとえば、中古住宅を内覧しているときに「○○万円にならないんですか?」と聞きたくなることもあるでしょう。
もし、聞きたくなっても言葉に出さないようにしてください。
基本的に、不動産業者(仲介人)は、
- 安易に値引き交渉をしてくる人は、あまり質のいい人ではない
- 安易に値引き交渉をしてくる人を相手にすると、その後、さらなる安易な値引き交渉を持ちかけられる
と頭の中で考えています。
実際の話、真剣に購入を考えている方の場合、
- 内覧の段階では、値引きよりも中古住宅そのものについて興味がある
- 購入意欲が強いのであれば、自宅などでじっくりと予算を検討してから具体的な値引き額を提示してくる
といった傾向があるので、どちらにせよ「安易な値引き交渉をする人 = 相手にすべきではない」という図式になるのです。
中古住宅の値引き交渉については、以下の記事を参考にしてください。
さらに詳しく
申し込み(買付証明)の法的な取り扱い
申し込み(買付証明)を発行しただけでは、契約が成立したことにはなりません。
申し込み(買付証明)は、あくまでも購入の意思(希望)があることを伝えたまでにすぎないものです。
そもそも「申し込み(買付証明)」は、不動産業会の慣習として作られる書類であり、法的な書類ですらありません。
民法第555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
上記は、売買契約の成立について記載されている民法第555条の条文です。
民法第555条の条文のみで判断する場合、「約し」と書かれているように、「口約束」でも契約は成立すると考えることができます。
(※実際に、民法上では「口約束」による契約も有効に成立する。)
しかしながら、中古住宅の購入のような「不動産売買契約」は、一般的な動産の売買契約とは性質がまったく異なります。
つまり、
- あとでニンジンを一本買うから取っておいて!
- その家ちょっと買いたいと考えているから取っておいて!
では、契約の重みが比べ物にならないほど異なるので、「取っておいて! = 契約」とするには乱暴だということです。
よって、不動産売買契約に関しては、不動産業界の慣行に従って、
- 売買契約書への署名捺印
- 内金の授受
をもってして契約が成立したと考えるのが妥当だとされています。
(※東京高判昭和50.6.30)
売渡承諾書が発行されていても契約成立ではない
申し込み(買付証明)は、あなた(買主)が発行する書類です。
申し込み(買付証明)に対する返答として、売主から「売渡承諾書」が発行されることがあります。
整理すると、
- 申し込み(買付証明)は、「以下の条件で購入する意思がある(希望)」を伝えるもの
- 売り渡し承諾書は、「その条件で売り渡すことを承諾する意思がある」を伝えるもの
となります。
ですので、双方の意思が合致し、契約が成立したかのように思うかもしれません。
しかし、先ほども述べた通り、不動産売買契約では、
- 売買契約書への署名捺印
- 内金の授受
をもってして契約が成立したと考えるのが妥当だとされています。
(※東京高判昭和50.6.30)
ですので、
- 申し込み(買付証明)
- 売渡承諾書
が揃っても、売買契約が成立したとは判断できません。
(※状況によっては「裁判所」が契約が有効に成立したと判断することもあるが、非常に稀である。)
申し込み(買付証明)における申込金の取り扱いと注意点
申し込み(買付証明)を発行するときに、申込金を支払うことがあります。
不動産業者によって金額は異なりますが、一般的には「数万円〜10万円」ほどです。
申込金は、あくまでも申し込み(買付証明)を行うのに支払われたお金であり、契約成立時には売買代金に充当される性質を持っています。
つまり、申し込み(買付証明)による意思表示を撤回した場合には、返金されるべきものであり、没収されるものではありません。
(※不動産業者が返金をしないことは、宅建業法に違反する。)
悪質な業者になると、申込金を、
- 手付金
- 違約金
として扱い、返金はできないと主張することがあります。
申込金は、あくまでも申込金であって、手付金(および違約金)ではありません。
手付金(および違約金)とは、売買契約にあたって全額決済を行う前に支払う前金であり、売買契約を結んでいない段階で出てくる言葉では決してありません。
万が一、悪質な業者にあたってしまった場合には、
- 都道府県庁の関係部署
- 宅建協会
- 法テラス
などに相談をしてください。
また、申込金を支払う場合には、かならず「預かり証」を受け取ってください。
(※領収証を受け取ってはいけない。)
申込金は、あくまでも預けたお金であり、不動産業者が自由に使っても良いお金ではありません。
ですので、「領収証」ではなく、かならず「預かり証」です。