最近では、ニュース・新聞で頻繁に聞くようになった「空き家問題」という言葉。少子高齢化、人口減少、相続問題など、現代日本を悩ませる大きな課題に寄り添って眠っていた社会問題。NRI(野村総合研究所)の発表によれば、2033年に予想される空き家総数は約2,150万戸と言われています。
3軒に1軒は空き家...そんな時代が目の前に迫っている、今。わたしたちは、空き家について真剣に考えなければならない時が来ています。今回は、空き家問題についてしっかりと考えるための導入について解説します。
過去から現在、そして未来へ。まずは、どのようにして空き家問題が変遷してきたのかを解説します。その後、空き家が社会に与える影響と対策などを紹介します。ひとりひとりの正しい認識と、小さな努力が空き家問題の解決には不可欠です。
この記事からわかること
- 空き家問題の概要
- 空き家問題の原因
- 空き家問題と外部不経済
空き家問題の概要
空き家問題といわれると、植物のツタが絡んでボロボロになっている廃墟のような家を想像する方が多いでしょうか。しかし、廃墟のような空き家(いわゆる危険空き家)は、空き家問題の氷山の一角にすぎず、全体の1%をはるかに下回る程度です。では、世間を騒がせている空き家とは、いったい何なのか?
この章では、まず空き家問題について正しく認識するところから始めます。空き家に関する偏った認識が、問題をみんなで共有する「自分事化」を阻んでいます。「わたしの周りには空き家なんてないよ。」から「わたしの周り空き家だらけだ!」へ。はじめの一歩です。
空き家の種類
以下に紹介しますが、空き家には種類があります。全部で4種類です。二次的住宅、売却用住宅、賃貸用住宅、その他の住宅といわれます。
二次的住宅
二次的住宅
別荘・・・週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅
その他・・・ふだん住んでいる住宅とは別に、残業で遅くなった時に寝泊まりするなど、たまに寝泊まりしている人がいる住宅
書いてある通りですが、別荘や臨時の寝泊まり部屋です。地方都市などではあまり馴染みがないものですが、都会では終電を逃したときなどを考えて、ちょっとした部屋を用意していることがあります。別荘については、企業所有のものもあれば、個人所有のものもあるでしょう。
二次的住宅の場合、どちらのケースでも1年に数回は所有者(もしくは管理者)が訪れることが普通です。定期的に掃除や点検が行われることから空き家ではないと思われるかもしれません。しかし、二次的住宅も空き家の一種です。
売却用住宅
売却用住宅
新築・中古を問わず、売却のために空き家になっている住宅
親から相続した実家を売る人や、子供が就職して広い家が必要なくなったので売るという人が増えています。中古物件の売却では、売却をスムーズにするために空き家にすることが一般的です。こうした売り出し中の中古物件がひとつ。
もうひとつ、新築の売却用住宅ということですが、いまひとつピンと来ないかもしれません。これは売り出し中の分譲住宅・マンションのことです。不動産業者や投資家がビジネスとして新築して売り出している物件も、当然空き家ということになります。
賃貸用住宅
賃貸用住宅
新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅
意外と盲点になっているのが、賃貸用住宅です。空き家といわれると、無意識に持ち家をイメージしがちですが、空室になっているアパートの一室も立派な空き家です。どうでしょうか?急にあなたの周りが空き家だらけということに気が付きませんか?
賃貸経営では、常に満室ということはなかなか難しいものです。人口減少が急速に進んでいる現在、空室の数は増えています。後述しますが、賃貸用住宅は投資物件であるということが、さらに空き家問題を悪化させる要因となっています。
その他の住宅
その他の住宅
上記以外の、人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在や、建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など。
その他の住宅という名前が非常に悪いのですが、かなりたちの悪い空き家です。なぜたちが悪いのか?どういった経緯で、その他の住宅になるのかを考えると理解しやすくなります。
誰でも不動産を所有したからには、自分で使用するか、売却して現金化するかしたいと考えます。しかし、あまりにもボロボロの物件であれば自分で住む気にはならないでしょう。かといって、賃貸価値も売却価値もない。結果として、どうしようもなくなった不動産が「その他の住宅」なのです。
都市部の空き家問題
誤解だらけの空き家問題ですが、中でも根深いのは、都市部には関係ないだろうという認識です。インパクトだけでメディアがピックアップする「これぞ空き家!」という映像が、誤った理解を深めているところもあるでしょう。ここでは、都市部には関係ないと思われがちな空き家問題の実態を解説します。
地方に比べて見えにくい・分かりにくいだけで、都市部にも空き家はたくさんあります。全国的に増え続けている空き家件数ですが、今後爆発的に増える可能性が高いとされているのは都市部のほうです。じっくりと考えてみましょう。
賃貸用住宅

種類別空き家数(引用:不動産流通推進センター 2016 不動産業統計集)
上の表は、不動産流通推進センターが公表している資料の一部です。下の棒グラフの賃貸用住宅(黄色の部分)に着目してください。平成15年は55.7%でしたが、平成25年には52.4%と減っています。しかし、空き家に占める割合では賃貸用住宅がもっとも高いです。
次は上の表を見てみましょう。賃貸用住宅の割合は減っていましたが、実数は増えていることが分かりますね。平成15年は367万5,000戸でしたが、平成25年には429万2,000戸に増えました。たった10年で、61万7000戸も空室の賃貸住宅が増えたのです。
平成25年住宅・土地統計調査によると、関東大都市圏の空き家総数は210万700戸でした。そのうち、賃貸用住宅は135万9,300戸であり、全体の64.71%を占めています。都道府県別にみてみると、どうでしょうか?

全国47都道府県別空き家率(引用:鹿児島県ホームページ)
例えば、北陸新幹線で盛り上がりをみせる石川県。地方都市といえる石川県ですが、空き家総数は76,900戸で、賃貸用住宅は35,900戸となっています。割合は46.68%であり、関東大都市圏が突出している(64.71%)ことが分かります(東京都のみで計算すると、全体の73.23%が賃貸用住宅となります)。
税制の欠陥が賃貸用住宅の過剰供給を促した
では、どうして都市の空き家に賃貸用住宅が多いのでしょうか?賃貸住宅を建てて、不動産投資をすれば儲かるからでしょうか?そんな馬鹿なことはありません。賃貸経営が大変だということくらい誰だって知っています。
答えは税制にあります。中でも重要なのは、固定資産税と相続税です。賃貸住宅を建築することで固定資産税と相続税の両方に節税効果が期待できるため、どんどんどんどん無駄なアパートなどが建てられるのです。
固定資産税については、建物を建てることで減免措置を受けられます。より節税効果があるのは、相続税の方です。相続税というのは、相続発生時の資産に課税されるものです。ということは、負債を増やせば減るのです。わざわざ借金をして賃貸住宅を建てれば、それは立派な負債です。
相続税の計算(簡易)
計算式①:正の財産(現金・証券・不動産など) - 負の財産(借金など) = 総資産
計算式②:総資産 × 相続税率 = 相続税額
死ぬ前に負の財産を増やして、意図的に総資産を減らす。相続税額は数千万円になることもあるので、同程度の借金をしてでも節税をする意味があるのです。結果、人口も多く、ビジネスも盛んな都市部では賃貸住宅の過剰供給になったという流れです(2015年には相続税の課税強化が行われたため、かけこみ供給も発生しました)。
ニュータウン
もうひとつの都市型空き家問題が、ニュータウンの過疎化です。戦後復興から高度経済成長期を経て、一気に人口が爆発した日本では、住宅需要が急激に高まりました。住宅需要を満たすために、ニュータウン開発が近郊・郊外で行われました。
ニュータウンというと地方にも存在するので、一概に都市だけの問題ではないだろうと思われるかもしれません。国土交通省が発表している『全国のニュータウンリスト』から「東京都+政令指定都市が所在する道府県」の実数を抽出しました。その数は、235万4,065戸であり、全供給数の75.42%を占めています。
参考:政令指定都市が所在している道府県
北海道/宮城県/埼玉県/千葉県/神奈川県/新潟県/静岡県/愛知県/京都府/大阪府/兵庫県/岡山県/広島県/福岡県/熊本県
ニュータウンで空き家が増えている背景には、わたしたちのライフスタイルの変遷が関わっています。ニュータウン開発が力強く進められていた頃の日本では、核家族化が進んでおり、交通インフラについても今ほど発達していませんでした。また車も一家に一台と言われていた時代です。
そのような社会情勢のもと、近郊・郊外のマイホームを購入することは、サラリーマンのゴールのひとつとされていました。結果として、多少の利便性を犠牲にしても郊外に一軒家を構える家族が増えました。距離にして通勤時間1時間前後のエリアです。
子供の世代になり、状況はどうなったでしょうか。通勤に1時間もかかる物件は、とても不人気です。車も一家に一台の時代は終わり、若者の車離れとまで言われるようになりました。当然、子供は住みつかず、相続したとしても処分に困る不人気物件が大量に残ったということです。
これがニュータウンの空き家問題が進行する仕組みです。ニュータウンのゴーストタウン化は、今後より一層加速するでしょう。
地方の空き家問題
この章では、地方の空き家問題について解説します。都市の空き家問題に比べて、はっきりとわかりやすいのが地方の空き家問題です。報道で使われる写真や映像も、インパクトのあるものが多く、まさに廃墟というような物件が多いです。
一度空き家化してしまうと、利活用が難しいのが地方の空き家問題の特徴と言えるでしょう。なぜ地方の空き家は難しいのか?根本的なところに焦点を絞って解説していきます。
その他の住宅

種類別空き家数(引用:不動産流通推進センター 2016 不動産業統計集)
都市の空き家問題でも紹介したグラフです。下の棒グラフからその他の住宅(紫色の部分)に着目してください。平成15年は32.1%だったのに対して、平成25年には38.8%になり、6.6%も増えています。
上の表から実数も確認してみます。すると、平成15年は211万8,000戸だったのに対して、平成25年には318万4,000戸に増えました。10年間で106万6,000戸も増えています。マンションの一室ではなく、活用方法の不明な一戸建てが106万6,000戸も増えたのです。

都道府県別空き家率(引用:不動産流通推進センター 2016 不動産業統計集)
上の表は、都道府県別の空き家率をまとめたものです。その他の住宅の動向がわかりやすくなっています。以下は、その他の住宅・空き家率の上位15都道府県をまとめたものです。
順位 | 都道府県名 | 空き家率 (その他の住宅) |
1位 | 鹿児島県 | 11.0% |
2位 | 高知県 | 10.6% |
3位 | 和歌山県 | 10.1% |
4位 | 徳島県 | 9.9% |
5位 | 香川県 | 9.7% |
同6位 | 島根県 | 9.5% |
同6位 | 愛媛県 | 9.5% |
8位 | 山口県 | 8.9% |
同9位 | 三重県 | 8.3% |
同9位 | 鳥取県 | 8.3% |
11位 | 宮崎県 | 8.2% |
同12位 | 岡山県 | 8.1% |
同12位 | 長崎県 | 8.1% |
14位 | 山梨県 | 8.0% |
15位 | 大分県 | 7.7% |
こうしてみると、明らかに地方が目立ちます。東京都は?というと2.1%です。地方に比べて都市部は、その他の住宅の空き家率が明らかに低くなります。いったい何が理由で、都市と地方にこれほどの差が生まれたのでしょうか?
人口動態との関連性
総務省統計局の日本の統計と、先ほどの上位10都道府県を照らし合わせてみます。すると、人口の減少率が上位15以内に、先ほどの15都道府県のうち10都道府県がランクインしています。以下の表の太字が重なっている都道府県です。
順位 | 都道府県名 | 人口増減率 (平成17年~平成22年) |
1位 | 秋田県 | -5.2% |
2位 | 青森県 | -4.4% |
3位 | 高知県 | -4.0% |
4位 | 岩手県 | -4.0% |
5位 | 山形県 | -3.9% |
6位 | 長崎県 | -3.5% |
7位 | 島根県 | -3.3% |
8位 | 和歌山県 | -3.3% |
9位 | 徳島県 | -3.0% |
10位 | 鳥取県 | -3.0% |
11位 | 福島県 | -3.0% |
12位 | 山口県 | -2.8% |
13位 | 鹿児島県 | -2.7% |
14位 | 愛媛県 | -2.5% |
15位 | 山梨県 | -2.4% |
みなさんが考えている通りだと思いますが、人口流出の激しい地域・産業(職)が少ない地域に集中しています。さらに深堀すると、中国・四国地方に集中しているという事実も浮かび上がります。この流れはさらに加速していくでしょう。
インフラが十分に発達していないにも関わらず、人口流出で自治体の財政は厳しくなる一方。このような状況でコンパクトシティ構想がより一層浸透するとなれば、地方の限界集落などは真っ先に切り捨てられます。今後は、そう遠くない郊外の町や村にも波が押し寄せるはずです。
コンパクトシティ構想とは
都市の郊外化を抑制して、人口を中心市街地に集中させる政策です。都市機能を集中させることで利便性を向上させ、無駄のない開発を目的としています。
廃墟と化したリゾートマンション
新潟県越後湯沢町ある苗場スキー場。バブルの頃には、多くのスキー客で賑わったリゾート地です。当時は景気が良かったため分譲マンションが乱立しました。
しかし、景気が良かったのもバブル崩壊までの話です。ピーク時には800万人いたスキー客も、今は200万人以下まで落ち込んでいます。結果として、どうなったかといえば想像に難しくないでしょう。
販売当初数千万円したマンションも、今では10分の1まで値下がりしてしまいました。中には10万円で購入できる物件もあり、廃墟と化しています。それでもオーナーは、管理費や修繕積立金、固定資産税などを払い続ける必要があります。
越後湯沢に乱立しているようなリゾートマンション問題は、全国的にみられる問題です。「そんなにマンションで困っているのならば壊してしまえばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、マンションの解体費用は、一戸建ての比ではありません。後述しますが、さらに厄介な問題として区分所有法が立ちはだかっています。
現状と今後
ここまで空き家問題を身近に感じてもらうために、どちらかというとミクロな視点で解説しました。この章ではマクロな視点(全国規模)で空き家問題を考えてみます。過去から現在、そして将来。空き家問題の大きな流れを確認してみましょう。

空き家数、空き家数及び空き家率の推移(引用:平成25年住宅・土地統計調査)
上のグラフは、昭和38年から平成25年までの総住宅数、空き家数及び空き家率の推移です。空き家率が右肩上がりに伸びていっていることが分かると思います。昭和38年には2.5%でしかなかった空き家率は、平成25年には13.5%まで増加してしまいました。平成25年の空き家数は805万戸です。

総住宅数、空き家数および空き家率の実績と予測結果(引用:野村総合研究所ホームページ)
上のグラフは、野村総合研究所が発表したものです。平成25年以降の予測値が追加されています。野村総合研究所の発表によれば、2033年には空き家数が2,167万戸にもなり、率にして30.4%となっています。新聞の見出しなどによくある「3戸に1戸は空き家!」の根拠です。
今後、移民の受け入れや景気回復・出生率改善などが見込めれば状況は変わるかもしれません。また既存住宅市場(中古住宅市場)の活性化など解決のカギとなる要因はいくつかあります。しかしながら、現状が続くようであれば高確率で上のグラフのような状況になるのでしょう。