根抵当権は、主に事業者や不動産投資家に使われる抵当権の一種です。
借り入れの自由度が増すメリットがありますが、使い方や設定がややこしく理解しにくいのが難点です。
とはいえ、クレジットカードのキャッシングにも似た性質を持っているので、使い方を理解できれば、事業推進の心強い味方になってくれることも事実です。
この記事では、根抵当権および極度額について解説しています。
根抵当権および極度額について、しっかりと理解し、事業の可能性を拡げる選択肢に加えましょう。
この記事からわかること
- 根抵当権とは
- 極度額とは
- 極度額の決め方
- 極度額と利息の関係
- 極度額の変更(増額および減額)
- 根抵当権の設定にかかる費用
根抵当権とは
根抵当権とは、通常の抵当権とはまったく別物の抵当権です。
通常の抵当権では、抵当権の設定ごとに借入額が確定し、定められた金額がきっちり貸し出されます。
根抵当権の場合には、借入の限度額だけが決められ、決められた借入限度額の範囲で貸し出される金額が動きます。
クレジットカードのキャッシング枠に似ていて、限度額100万円だけ決められていて、利用者は限度額100万円の範囲内で、利用者はお金を借りたり・返したりします。
主に事業者や不動産投資家が根抵当権による借入を活用します。
根抵当権による借入を行った場合、借りたり返したりするたびに抵当権を設定する必要がないので、債権者(金融機関など)・債務者(借りている人)ともに、わずらわしい手続きが減るメリットがあります。
当然、抵当権を設定するたびにかかる費用もかからなくなるので、コスト面からみてもメリットがあります。
極度額とは
根抵当権による借入の限度額のことを「極度額」といいます。
極度額が5,000万円であれば、5,000万円の枠内で自由にお金を借りたり・返したりすることができます。
5,000万円を全額借りていることもできますし、1円も借りずに「いつか」のために根抵当権の設定だけを残しておくことも可能です。
事業者や不動産投資家は、日々の業務や投資活動の中で、いつお金が必要になるのか予測ができないので、今借りる必要がなくても、根抵当権を残しておくことで有事に備えることができます。
極度額の決め方
極度額を決めるときには、
- 元本確定
- 貸出予定金額および極度額の決定
の2ステップが踏まれます。
元本確定
元本確定とは、根抵当権を設定するときに担保となる物件の価値を確定することです。
当然、元本確定をしたことで算出された担保価値は、極度額などを決める参考に使われます。
また、根抵当権の元本確定時には、ひとつの不動産だけではなく、複数の不動産を担保にすることができます。
共同担保(共担)というもので、自宅とすでに持っているマンションなどを担保にしたりします。
根抵当権に設定されている共同担保は、共同担保目録を確認することでわかります。
貸出予定金額(融資予定金額)と極度額
元本確定による担保価値の算出ができたら、その価値をベースに「貸出予定金額(融資予定金額)」を決定します。
貸出予定金額が、事実上の借りられる金額です。
貸出予定金額とは別に「極度額」が設定されます。
貸出予定金額が4,000万円で、極度額が4,800万円という具合です。
極度額は貸出予定金額の120%に設定されることが多い
一般的に、極度額は、貸出予定金額の120%前後に設定されることが多いです。
先ほどの例にも出したように、貸出予定金額が4,000万円であれば、極度額は4,800万円といった具合です。
金融機関によって設定が異なり、110%のところもあれば、130%のところもあります。
しかし、100%のところは、基本的にありません。
遅延(利息)障害金
なぜ100%に設定する金融機関は基本的にないのかというと、「遅延(利息)障害金」が関係しています。
遅延(利息)障害金とは、融資の利息が支払われないことによって債権者(金融機関など)が被った損失のことです。
通常の抵当権の場合には、債務者(借り手)が破産などによって債務を履行できなくなった場合でも、競売などによって2年分の遅延障害金を回収することができます。
しかし、根抵当権の場合には、極度額までの債権価値しか認められません。
つまり、4,000万円の融資をして、極度額を4,000万円に設定してしまうと、債務者が破産などをしてしまったときに4,000万円までしか回収できず、利息分がまかなえない可能性があるのです。
利息が回収できなければ、金融機関に儲けはないので、極度額を120%などに設定することで回収できなくなることを防いでいます。
極度額と利息
根抵当権を設定して借入をしている場合には、基本的に借りている分だけ利息が発生します。
極度額が4,800万円だとしても、1円も借りていなければ、利息は0円です。
1,000万円借りれば、1,000万円分だけ利息が発生します。
極度額の分だけ利息が発生するわけではありません。
極度額の変更(増額および減額)
極度額の変更には、
- 極度額の増額変更
- 極度額の減額変更
の2つがあります。
根抵当権の利害関係人
極度額の変更(増額および減額)を理解するうえで、「利害関係人」の存在は無視できません。
利害関係人とは、根抵当権を通じて何かしらの利害関係を持っている人のことをいいます。
増額するときの利害関係人
増額するときの利害関係人は、
- 根抵当権と同順位および後順位の担保権者
- 根抵当権の後順位の不動産差押債権者
- 根抵当権の後順位の不動産仮処分債権者
- 根抵当権の後順位の所有権に関する仮登記権利者
です。
たとえば、根抵当権を同順位および後順位の担保権者の場合、根抵当権が増額されることで、万が一のときに金銭を回収できなくなる可能性が高まります。
破産などによって担保を金銭に変えたときには、抵当権の順位が上の抵当権者から優先して返済が行われます。
根抵当権が4,800万円から5,800万円に増額された場合、1,000万円分だけ回収できないリスクが高まります。
減額するときの利害関係人
減額するときの利害関係人は、
- 根抵当権の転抵当権者
- 被担保債権の差押債権者
です。
転抵当権とは、抵当権をさらに抵当に入れて借入をすることです。
転抵当権者は、もともとの根抵当権をベースにして借入金額を決めています。
もともとの根抵当権(4,800万円相当)をベースにして、4,800万円貸し出しているときに、もともとの根抵当権が減額によって2,000万円になってしまっては困るということです。
極度額の増額(民法398条の5)
極度額を増額するときには、民法398条の5に基づいて手続きが行われます。
まず、根抵当権者と根抵当権設定者が増額について契約を結びます。
その後、利害関係人から(増額変更承諾書による)極度額の増額について承諾を得ます。
当事者間での合意および利害関係人の承諾を得ることができたら、もともとの根抵当権設定登記とは別に「付記登記」をします。
登記された情報は、いかなる場合でも、上書き保存されることはありません。
どのような経緯で、何が起きたのかを記録するのが登記の役割なので、上書き保存をしてしまっては、本来の目的が果たせなくなります。
ですので、「付記登記」を使って別名で保存(枝番で管理)されます。
極度額の減額
極度額を減額する場合には、
- 民法第398条の5
- 民法398条の21
による2通りの方法があります。
民法第398条の5により極度額を減額する場合には、増額のときと同じような手続きが行われます。
民法398条の21による減額
民法398条の21により極度額を減額する場合には、まず、元本確定をし直します。
はじめに元本確定をしたときの担保価値が4,000万円で、極度額が4,800万円に設定されていたとします。
減額請求によって元本確定をし直したところ、減額請求時点での担保価値が2,000万円と判明しました。
この場合、2,000万円に2年分の利息(400万円とする)を加えた額である「2,400万円」まで減額が認められます。
根抵当権の極度額設定にかかる費用
根抵当権の極度額を設定するときには、
- 金融機関の融資手数料
- 根抵当権設定費用
などがかかります。
根抵当権設定費用は、
- 司法書士報酬
- 登録免許税
- 事前・事後に登記事項証明書を取得する費用
で構成されています。
司法書士報酬は、司法書士によってさまざまですが「1件あたり3万円~5万円前後」が相場です。
当然、融資などの条件(担保に入れる額や物件数)に応じて金額が変わるので、根抵当権を設定するときには、金融機関及び司法書士にしっかりと確認をしてください。