義両親(義父母)とのトラブルは、日本中どこにでもあるものですが、どれも根が深いものです。
嫁・婿に来たものからすれば、「両親とはいえ、義理。どこまでいこうが他人だよ。」という思いが根底にあります。
正月やお盆など、会わざるを得ないイベントは憂鬱以外の何物でもなく、もはや修行のような心持ちで挑む方も多いでしょう。
子育てひとつとってもそうですが、「金は出しても、口出すな。」とはよく言ったものです。
ちょっとしたイベントくらいは我慢できますが、衣食住など生活に密接することとなれば「話は別。」です。
この記事は、義両親(義父母)の実家を相続するのが「さも当たり前」のように要求されてしまった方に向けた記事です。
心情的な問題と金銭的な問題が複雑にからみあっていますが、ひとつひとつ整理しながらひも解いていきます。
あなたのケースに重ねながら、考えてみていただけると幸いです。
部屋にあるテレビや時計などをフック(記憶を呼び起こすカギ)にして、「テレビ→ニュース番組→コメンテーター」 + 「時計→針→するどい」 = 「マツコデラックス(するどいコメント)」を思い出すようなものです。
場所というものには、特別な思い入れが残りやすいものです。
ある場所で起きたうれしい出来事、悲しい出来事は、その場所に行くだけで何度でも思い出します。
夫婦の思い出の場所に行けば、その時のことが鮮明に思い出せますよね。
場所に引きずられるようにして思い出されるストレスは計り知れないものなので、甘く見ないようにしましょう。
義両親(義父母)からの「実家を相続してもらうから、マンションなんて買っちゃだめよ。」という理不尽な強要
どうかしましたか?
お正月に義両親のところへ行ったら、義母がいきなり「実家を相続してもらうから、マンションなんて買っちゃだめよ。」って!
ひとことの相談もなし!
予定は未定じゃなくて、予定は決定みたいな口ぶりよ!
ほんとに頭にくるわ!
あなたというのは「義両親(義父母)」のことですね。
わたしは何もしてないので、何かと思いましたよ。
不思議なくらい毎回毎回タイミングが悪いのよ!
120%、相性が悪い!
おそらく「相続のはなし」もダブルコンボ決められてるんでしょう?
独身のくせに。
ほかには何かありましたか?
- 賃貸で住む場所は好きに選べるからいいじゃない。
- でも、かわいい息子と離れるのは嫌だから、遠くはダメよ。
- あ、同居とかは考えてないからね。
- でも、うちは二世帯住宅で、わたしたちは「おじいちゃん・おばあちゃん」と住んでるわよ(チラッ
くらいね。
義両親(義父母)側の言い分
義両親(義父母)側の言い分を整理してみます。
事実に則した言い分
- マンション(持ち家)を購入してはいけない。
- 実家を相続してもらう。
- 相続税を抑えたい。
- 同居の予定はない。
- わたしたちが死ぬまでは賃貸で好きなところに住んでよい。
心情に則した言い分
- マンション(持ち家)なんてデメリットだらけでいいことがない。
- タダ同然で家が手に入るのだから、いいことでしょ。
- 同居の予定はないけど、二世帯で「おじいちゃん・おばあちゃん」と同居してる。
- 好きなところに住んでいいけど、遠くに住むのはダメ。
あなたの言い分
事実に即した言い分
- マンション(持ち家)を購入するつもり。
- 「実家の相続」そのものは悪いものではない。
- 相続税が抑えられる?
- 同居の予定はない。
- 賃貸はイヤ
心情に則した言い分
- マンション(持ち家)にもメリットがあるでしょ。
- ボロボロの家を相続してもうれしくない。
- なし崩しによる同居は絶対に避けたい。
- 住む場所をとやかく言われる筋合いはない。
解決すべき問題
言い分を整理した結果、
- マンション(持ち家)を購入することのメリット・デメリット
- マンション(持ち家)があると、相続税が高くなるのか?
- 同居をする必要は本当にないのか?
- 本当にタダ同然で相続できるのか?
- 義両親(義父母)の言い分に従う必要があるのか?
の5つが解決すべき問題として浮上していることがわかります。
むしろ、事実をひとつずつ検討したうえで、気持ちと折り合いがつくかを判断するとよいかもしれません。
マンション(持ち家)を購入することのメリット・デメリット(賃貸と比較)
マンション(持ち家)を購入することのメリット・デメリットについて整理します。
ひとくくりに「いい・わるい」を決められるものではありません。
状況に合わせて考えてみてください。
マンション(持ち家)を購入するメリット(賃貸と比較)
マンション(持ち家)を購入するメリットには、
- 世間的な評価および信用
- 自由に住まいをカスタマイズできる
- 生活の利便性が向上する
- セキュリティが高い
などが挙げられます。
世間的な評価および信用
今では「家を構えて一人前」という文化は廃れつつありますが、ステータスに直結していることは否定できません。
一定の経済力があることの証にもなるので、世間的な評価は高まります。
また、不動産はいざというときの担保価値があるので、様々な面で信用力が高まります。
自由に住まいをカスタマイズできる
マンション(持ち家)の最大の魅力といっても過言ではないのが、自由にカスタマイズできることです。
賃貸の場合、壁に画びょうを刺すかどうかさえ考えなければいけないことがあります。
近年では、借り手に有利な法改正なども進んでいるので、さほど気にする必要はなくなりましたが、やはり所有物との差はあります。
キッチンの使い勝手が悪いときなどには、賃貸ではリフォームするという選択はとても困難です。
しかし、マンション(持ち家)の場合には、リフォーム・リノベーションによる改装も予算次第で自由にすることができます。
クッションフロアの床材をフローリングに替えたいと思っても、下の階の騒音を軽減させる理由から認められないことがあります。
また、もともとがクッションフロアのマンションでは、基礎床を均一にならしていないことが多く、フローリングを張るために基礎床の工事が必要なことがあります。
「あとからこうしよう」という考えがあるのであれば、事前に念入りに検討を重ねてください。
生活の利便性が向上する
マンションは立地が命です。
スーパーやコンビニなどの買い回り施設、公共交通機関などが周辺にあることが多く、当然、生活の利便性が向上します。
車が運転できなくなったときでも、生活に不自由を感じることが少ないところが大きなメリットです。
のちのち、売却を考えているのであれば、売れないということも十分に考えられます。
また、不人気マンションでは管理費・修繕費を十分に集めることができず、管理がずさんになることも考えられます。
立地の悪いマンションを買うくらいであれば、多少高くても賃貸のほうがよいくらいです。
セキュリティが高い
ほとんどのマンションは居住者以外が自由に出入りできないようになっています。
- 管理人の存在
- モニター付きインターフォン
- 監視カメラ
など、非常に高いセキュリティは住む安心につながります。
不審者のみならず、訪問販売の営業などもシャットアウトできるので、余計な煩わしさがありません。
女性用賃貸であれば、玄関のセキュリティがしっかりしていることが多いですが、そのほかはセキュリティがしっかりしていることが稀です。
賃貸経営をしている家主からしてもホームセキュリティの導入によるコスト増は歓迎できないので、消極的です。
マンション(持ち家)を購入するデメリット(賃貸と比較)
マンション(持ち家)を購入するデメリットには、
- 固定資産税の支払い
- 管理費、修繕積立金の支払い
- 住宅ローンの支払い
- 管理組合および町内会への参加
- 簡単に引っ越しはできない
などが挙げられます。
固定資産税の支払い
マンション(持ち家)を購入すると、固定資産税の支払いをしなければいけません。
年間にして、それなりの額がかかるので、無視できるものではありません。
とはいえ、賃貸の場合、固定資産税が賃料に含まれているとも考えられます。
家主が家賃を決めるときには、賃貸経営にかかる様々なコストを考えたうえで、利益が出るように家賃を設定します。
固定資産税が家賃に含まれていると考えるのは普通で、直接支払っていないだけといえます。
管理費、修繕積立金の支払い
マンション(持ち家)を購入すると、管理費・修繕積立金の支払いをしなければいけません。
月々に支払う額には幅がありますが、安くても2万円はかかります。
また、人口減少や材料費の高騰により、不人気マンションに限らず、様々なマンションで管理費・修繕積立金の高騰が続いています。
最近では、大規模修繕の工事費用をふっかけて高額請求するする詐欺事件のようなものも多発しています。
管理組合がしっかりしていれば問題ありませんが、基本的には素人集団が多いので注意が必要です。
マンション管理士などが組合管理に関わっていれば、多少は安心できますが、グルだった場合には手の施しようがありません。
大きな落とし穴になる可能性があるので、購入を検討するときには、相当念入りに調べるようにしましょう。
住宅ローンの支払い
一応、デメリットのひとつに挙げましたが、住宅ローンの支払いをしなければいけません。
とはいえ、賃貸でも家賃がかかりますので、比較してデメリットといえるかといえば微妙です。
一生賃貸に暮らした場合のコストとマンション(持ち家)に暮らした場合のコストを比べると、それほどの差はありません。
マンション(持ち家)で暮らしたほうが300万円~500万円ほどコストが高くなりますが、月あたりに換算すると1万円前後の差です。
賃貸では得ることのできないメリットに1万円が高いと感じるか、安いと感じるかは状況によって異なります。
※トータルコストの比較です。
住宅ローン・固定資産税・管理費・修繕積立金などすべてを加えたものとの比較になります。
管理組合および町内会への参加
マンション(持ち家)を購入すると、管理組合および町内会に参加しなければいけないことがあります。
最近では、町内会への参加を強要されることは減りましたが、周辺の雰囲気によります。
また、管理組合への参加は「程度の差」こそあれど、無視することはできません。
議決権を委任することで、会議などに参加しないことは可能ですが、議題は生活に直結するので他人事ではありません。
簡単に引っ越しができない
マンション(持ち家)に関するデメリットを挙げてきましたが、最大のネックは簡単に引っ越しができないことです。
賃貸の場合、何か気に入らないことがあり、どうしても我慢ができないなら「引っ越し」という手段を比較的自由にとることができます。
しかし、マンション(持ち家)を購入した場合、気に入らないことがあったり、近隣とのトラブルなどが起きても、そうそう「引っ越し」はできません。
マンションの売却、新居の準備などクリアしなければいけない問題が山積みになります。
マンション(持ち家)を購入するのであれば、しっかりとして「人生設計」をしてほしい
デメリットが自分にふりかかってきたときに対応できるようにしておけば、問題はないわけです。
義両親(義父母)のことが気になる気持ちはわかりますが、マンション(持ち家)の購入とは切り離してください。
不動産を買うときには、不動産としての評価が重要です。
マンション(持ち家)の購入は、とてもいいことだと思います。
ただし、いざというときに資産価値があるものに限ります。
資産価値がなく、売却さえままならないものでは、首が回らなくなってしまいます。
逆に言えば、しっかりとしたものを購入するのであれば、引っ越しの問題も意外と簡単にクリアできてしまいます。
マンション(持ち家)があると、相続税は高くなる
結論からいえば、マンション(持ち家)があると、相続税は高くなります。
しかし、相続税の額がどの程度変わるのかというと「微々たるもの」です。
もともと相続税の心配をすべきなのは、資産価値が1億円を超えるような資産家です。
世の中の大半の方は、相続税の心配をする必要はありません。
下手に節税対策をした結果、無駄なことをしてしまって要らない負債を抱えるほうが多いです。
では、ひとつひとつ解説していきます。
小規模宅地の特例(宅地の相続税評価額が80%減額される特例)
相続税には「小規模宅地等の特例」というものがあります。
居住用宅地(住むのに使っている土地)であれば、一定の規模に限り、相続税評価額を80%減額する特例です。
いくつかの種類にもよりますが、一般的な住宅であれば「宅地全体の240㎡(およそ72.6坪)までの部分」です。
ほとんどの一戸建ての宅地は、すべての部分がカバーできると考えられます。
例えば、280㎡の宅地があり、10万円/㎡だったとします。
この場合、
280㎡ × 10万円/㎡ = 2,800万円
となり、相続税評価額は「2,800万円」です。
小規模宅地等の特例が適用できる場合には、80%減額されるので、
2,800万円 × (100% - 80%) = 560万円
となり、相続税評価額は「560万円」に圧縮されます。
相続税の計算(相続税評価額が「相続税の額」ではない)
相続税評価額の計算をしてきましたが、相続税評価額が「相続税の額」ではありません。
相続税評価額は、相続税を計算するための要素のひとつです。
相続税の計算は、
- いろんな財産の相続税評価額の合計を計算する
- 基礎控除額を計算する
- 各相続人の相続分を計算する
- 相続税率を掛けて、相続税額が決定する
という4ステップに分かれます。
つまり、さきほど紹介した「小規模宅地等の特例」による宅地の減額は、全体のほんの一部に過ぎません。
いろんな財産の相続税評価額の合計を計算する
財産には、正の財産と負の財産があります。
正の財産には、
- 現金
- 有価証券
- 不動産(ローン完済済み)
などがあります。
負の財産には、
- 各種ローン(つまり、借金)
- 不動産(ローンが残っている)
があります。
相続税評価額の計算は、
正の財産 - 負の財産 = 相続税評価額
となります。
例えば、
- 現金:3,000万円
- 有価証券:500万円
- 家:2,000万円
- 借金:2,000万円
であれば、
正の財産(3,000万円 + 500万円 + 2,000万円) - 負の財産(2,000万円) = 3,500万円
となり、相続税評価額の合計は「3,500万円」です。
基礎控除額を計算する
相続税を計算するときには、基礎控除額という「相続の状況に応じた減額ボーナス」があります。
基礎控除額は、
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 基礎控除額
という計算をします。
例えば、法定相続人が「子供が2人、妻が1人」の場合、
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
となり、基礎控除額は「4,800万円」となります。
それでも4,800万円の控除がされるのですが、果たして4,800万円以上の資産を持っている家がどれだけあるでしょうか?
各相続人の相続分を計算する
相続税評価額の合計を計算し、基礎控除額を差し引いた後には、各相続人の相続分を計算します。
先ほどの法定相続人(子2人・妻1人)の場合、法定相続分は、
- 妻:50%
- 子A:25%
- 子B:25%
となります。
ですので、
- 相続税評価額の合計:7,800万円
- 基礎控除額:4,800万円
- あなたは「子B」の関係者
だった場合、
(7,800万円 - 4,800万円) × 25% = 750万円
となり、あなたに関係する相続税の課税評価価値は「750万円」となります。
相続税率を掛けて、相続税額を決定する
最後に「相続税率」を掛けて、ようやく「相続税額」が決定します。
法定相続分に応じた評価額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上の表は、相続税率と控除額の一覧表です。
先ほどの例では、法定相続分に応じた評価額が「750万円」でした。
ですので、
750万円 × 10% = 75万円
となり、相続税の額は「75万円」となります。
よほどの資産家でない限り、相続税対策は不要
払うことになったとしても、大した額になることは稀です。
おおよそでもいいので、一度計算してみてください。
同居をする必要は本当にないのか?
同居をする必要は本当にないのか?という点について、「必ずしもないとは言い切れない」が答えです。
小規模宅地等の特例を活用する場合には、
- 相続する人の配偶者(妻もしくは夫)が土地を相続する
- 相続する人と同居をしていた人が土地を相続する
- 相続する人が未婚の場合、3年間借家に住んでいた人が相続する
のいずれか1つを満たさなければいけません。
3つ目の条件は、いわゆる「家なき子特例」と呼ばれるものです。
借家住まいだった人が相続する場合にも、小規模宅地等の特例を適用することができるようになる特別な条件です。
近年、「家なき子特例」を活用するために、相続が近づいた頃に自宅を売却して、あえて借家暮らしにすることで特例を適用させるケースが増えています。
結果、「家なき子特例」に対する締め付けが厳しくなり、わざとらしい場合には特例の適用を認めないということも視野に入れた検討がなされています。
今後、どのような流れになるのかは不明ですが、将来的に同居せざるを得ないこともありえない話ではないです。
あくまでも「必ずしもないとは言い切れない」にとどまります。
本当にタダ同然で相続できるのか?
本当にタダ同然で相続できるのか?という点について、「金額の大小はあれど、それなりの費用はかかる」が答えです。
主に、
- 相続税
- リフォーム・リノベーション費用
がかかる費用に挙げられます。
基本的には、相続税はよっぽどでない限り、大きな金額にはなりません。
問題は、リフォーム・リノベーション費用です。
築40年の家に手入れが不要ということは、あらゆる面で考えられません。
というか、そもそもキッチンとかお風呂の設備が使いにくいのよ。
もらったところで、「夢のマイホーム」とはかけ離れてるのよね。
リノベーションをするのであれば、数千万円がかかります。
リフォームであっても、水回りであれば、500万円以上かかることは普通にあることです。
改装費用は自費ということであれば、正直な話、負債に近いです。
義両親(義父母)に従う必要があるのか?
義両親(義父母)に従う必要があるのか?は、さまざまな点を考慮したうえで判断してください。
そもそも、主人は次男だから、「いざ、相続!」という場面で、長男がしゃしゃり出てくる可能性もあるし。
相続問題は荒れるときには、ひどく荒れますから。
1,000万円以上の相続価値があったとしても、変なもめごとに巻き込まれるくらいなら「相続放棄」も悪い手ではありませんよ。
何を得て、何を失うのか。
得るばかりが「相続」ではありませんから。