抵当権の順位について解説しています。
抵当権の順位について、
- 抵当権の順位:概要
- 抵当権の順位:弁済の優先
- 抵当権の順位:確認方法
- 抵当権の順位:変更
- 抵当権の順位:譲渡
- 抵当権の順位:放棄
を解説しています。
抵当権の順位とは
民法第373条(抵当権の順位)
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。
抵当権には、順位があります。
上記にあるように、原則として、抵当権の順位は「抵当権設定登記」が行われた順番によって決まります。
たとえば、ある不動産に対して、
- 債権者A
- 債権者B
- 債権者C
がいたときに、
- 債権者A:1番目に抵当権設定登記を行なった
- 債権者B:2番目に抵当権設定登記を行なった
- 債権者C:3番目に抵当権設定登記を行なった
という場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
となります。
債権者A(順位1位の抵当権者)の債務が完済され、抵当権抹消登記を行なった場合には、
- 債権者A:抵当権者ではなくなる
- 債権者B:順位1位の抵当権者に繰り上がる
- 債権者C:順位2位の抵当権者に繰り上がる
となります。
さらに詳しく
抵当権の順位:弁済の優先
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
があり、債務者(お金を借りている人)が債務を滞らせたとします。
債務が滞れば、借金を回収できないので、抵当権が実行されます。
抵当権が実行されると「競売」になり、不動産が売却されます。
不動産が競売により売却され、2,000万円で落札された場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,000万円)
- 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額500万円)
であったとすると、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(すべて回収できる) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,000万円)
→500万円の弁済を受ける(残り500万円が回収できない) - 債権者C:一般抵当権者(債権額500万円)
→一切の弁済を受けることができない
となります。
抵当権の順位によって弁済の優先度が変わるので、債権者(金融機関など)は「抵当権設定登記」にこだわります。
抵当権の順位:確認方法
抵当権の順位を確認するには「登記事項証明書」を取得します。
登記事項証明書の権利部(乙区)には、所有権以外の権利に関する事項という欄が用意されています。
上記の場合、
- 順位1位:(受付年月日)平成18年6月6日の抵当権者
- 順位2位:(受付年月日)平成27年10月7日の抵当権者
です。
登記事項証明書を取得する目的が「抵当権の確認」である場合には、共同担保目録を同時に請求してください。
さらに詳しく
抵当権の順位:変更
民法第374条(抵当権の順位の変更)
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
抵当権の順位は変更することができます。
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
があるとします。
このときに抵当権者全員の合意があれば、
- 債権者A:順位2位の抵当権者に下がる
- 債権者B:順位1位の抵当権者に上がる
- 債権者C:順位3位の抵当権者のまま
ということが可能です。
ココに注意
抵当権の順位を変更するためには、すべての抵当権者(利害関係者)の同意を得なければいけません。
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:一般債権者(抵当権者ではない)
- 債権者D:順位3位の抵当権者
があり、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
- 債権者D:順位4位の抵当権者
としたい場合には、債権者CD間の同意だけではなく、抵当権者AおよびBも含めた全員の同意が必要です。
抵当権の順位変更の登記に必要な書類
不動産登記法第89条(抵当権の順位の変更の登記等)
抵当権の順位の変更の登記の申請は、順位を変更する当該抵当権の登記名義人が共同してしなければならない。
抵当権の順位変更の登記に必要な書類は、
- 委任状
→順位変更に関係する抵当権者(債権者)全員のもの - 資格証明書または会社謄本(※発行後3ヶ月以内のもの)
→順位変更に関係する抵当権者(債権者)全員のもの - 登記済設定契約書または登記識別情報
→順位変更に関係する抵当権者(債権者)全員のもの - 順位変更契約書または登記原因証明情報
→順位変更に関係する抵当権者(債権者)全員の連署
です。
抵当権の順位変更の登記を行う場合、順位変更に関係する抵当権者(債権者)全員に利害が及びます。
ですので、あらゆる書類について、順位変更に関係する抵当権者(債権者)全員のもの(及び同意の証拠)が必要になります。
抵当権の順位変更の登記にかかる費用(相場)
抵当権の順位変更の登記にかかる費用(相場)は、
- 司法書士報酬:およそ(2万円 + 5,000円 × 抵当権の数)
- 登録免許税:1,000円 × 抵当権の数
です。
抵当権の順位:譲渡
民法第398条の15(抵当権の順位の譲渡又は放棄と根抵当権の譲渡又は一部譲渡)
抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が、その根抵当権の譲渡又は一部譲渡をしたときは、譲受人は、その順位の譲渡又は放棄の利益を受ける。
抵当権の順位は譲渡することができます。
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
があり、債権者Aが債権者Cに抵当権の順位を譲渡した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
(※ただし、順位を譲渡としているので債権者Cへの弁済が優先される。) - 債権者B:順位2位の抵当権者
(※順位および弁済額は変わらない。) - 債権者C:順位3位の抵当権者
(※ただし、債権者Aが受けられる範囲内で優先的に弁済を受けることができる。)
となります。
抵当権の順位を譲渡したときには、譲渡した抵当権者が受けることのできるはずだった利益を引き継ぐ権利を得るだけです。
抵当権の順位が変わるわけではなく、ほかの抵当権者が受けることができる利益には影響が及びません。
それゆえ、譲渡については、ほかの抵当権者(利害関係者)の同意も必要ありません。
抵当権の順位が譲渡されたときの計算
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
があり、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
であったとします。
不動産が競売により売却され、3,000万円で落札された場合、通常は、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→弁済を受けことができない(2,000万円が回収できない)
となります。
しかし、債権者Aが債権者Cに抵当権の順位を譲渡した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→債権者Cに譲渡したので弁済を受けることはできない - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→債権者Aの譲渡により、1,500万円の弁済を受ける(500万円が回収できない)
となります。
抵当権の順位が譲渡された場合、譲渡を受けた債権者は、譲渡した抵当権者が弁済を受けられる範囲内でのみ利益を得ることができます。
よって、先ほどの例では、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→債権者Cに譲渡したので弁済を受けることはできない - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,000万円の弁済を受ける(500万円が回収できない) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→債権者Aの譲渡により、2,000万円の弁済を受ける(完済)
とならずに、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額1,500万円)
→債権者Cに譲渡したので弁済を受けることはできない - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→債権者Aの譲渡により、1,500万円の弁済を受ける(500万円が回収できない)
となりました。
抵当権の順位:放棄
民法第376条(抵当権の処分)
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
抵当権の順位は放棄することができます。
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
があり、債権者Aが債権者Cに抵当権の順位を放棄した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
(※ただし、順位を放棄としているので、弁済額が債権者Cと按分される。) - 債権者B:順位2位の抵当権者
(※順位および弁済額は変わらない。) - 債権者C:順位3位の抵当権者
(※ただし、債権者Aの放棄により、弁済額は債権者Aと按分される。)
となります。
抵当権の順位を放棄したときには、放棄を受けた債権者が、放棄をした抵当権者と同じ順位に着くイメージになります。
抵当権の順位が変わるわけではなく、ほかの抵当権者が受けることができる利益には影響が及びません。
それゆえ、放棄については、ほかの抵当権者(利害関係者)の同意も必要ありません。
抵当権の順位が放棄されたときの計算
抵当権が複数設定されている不動産について、
- 債権者A:順位1位の抵当権者
- 債権者B:順位2位の抵当権者
- 債権者C:順位3位の抵当権者
があり、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
- 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
- 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
であったとします。
不動産が競売により売却され、3,500万円で落札された場合、通常は、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→2,000万円の弁済を受ける(完済) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→弁済を受けことができない(2,000万円が回収できない)
となります。
しかし、債権者Aが債権者Cに抵当権の順位を放棄した場合、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→抵当権の順位を放棄したので、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→債権者Aの放棄により、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない)
となります。
ココに注意
抵当権の順位が放棄された場合、
- 放棄をした抵当権者
- 放棄を受けた債権者
の間で、抵当権の順位により受けることができる利益が按分されます。
よって、先ほどの例では、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→弁済を受けることができない(2,000万円が回収できない) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→2,000万円の弁済を受ける(完済)
とならずに、
- 債権者A:順位1位の抵当権者(債権額2,000万円)
→抵当権の順位を放棄したので、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない) - 債権者B:順位2位の抵当権者(債権額1,500万円)
→1,500万円の弁済を受ける(完済) - 債権者C:順位3位の抵当権者(債権額2,000万円)
→債権者Aの放棄により、1,000万円の弁済を受ける(1,000万円が回収できない)
となりました。