不動産登記の意義について解説している記事です。
不動産登記の意義について、
- 不動産登記の意義
(取引および一般社会への影響) - 公信力について
- 対抗力について
- 権利推定力について
- 形式的確定力について
を解説しています。
不動産登記が守っているのは「当たり前」のことです。
しかし、「当たり前」が守られているゆえに、私たちが安心して不動産取引を行えるのも事実です。
不動産登記の意義
なぜ不動産登記をするのか?といえば、
不動産登記は、わたしたちの大切な財産である土地や建物の所在・面積のほか、所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し、これを一般公開することにより、権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし、取引の安全と円滑をはかる役割をはたしています。
(法務省:不動産登記のABCより引用)
とある通り、不動産についてわかりやすい記録を作ることで、誰でも簡単に理解できるようにし、不動産取引の健全性を保つためです。
世間一般に「不動産」と聞くと、
- 宅地
- 一般住宅
- 賃貸マンション
- 構想商業ビル
など、主に土地や建物そのものをイメージされる方が多いです。
しかし、それらは単なる器であって、不動産の本質は「権利」にあります。
不動産の権利というと、
- 所有権
- 抵当権
- 借地権
などがありますが、ほかにも、
- 地役権
- 占有権
- 空中権
- 入会権
- 先取特権
- 区分所有権
など、聞きなれない権利がたくさんあります。
不動産について、
- どのような権利が付着しているのか?
- 誰のための権利なのか?
- 現在、有効な権利なのか?
といったことを一目でわかるようにしているのが「不動産登記」です。
豆知識ですが、
- 船舶
- 飛行機
も不動産扱いなので、不動産登記が作成されます。
(※ただし、重さ20トン以上など、細かい規定が存在する。)
もしも不動産登記がなかったら?
もしも不動産登記がなかったら、どうなるのでしょうか?
答えは「どのようにでもなる」のです。
たとえば、賃貸住宅を例に考えてみましょう。
賃貸住宅Aについて、
- 家主A
- 借主B
がいたとします。
借主Bは、家主Aの承諾を得て、賃貸住宅Aに住んでいたのですが、
- 家主C
- 借主D
が、ある日突然現れて、
- 家主Cが「賃貸住宅A」の所有者である
- 家主Cは「借主D」に使用を承諾している
- 家主A(および借主B)は退去しろ
と主張しました。
家主A(および借主B)からすると、生活を脅かされる事態なので「そんなはずはない!」と喧嘩になります。
最終的には裁判に発展し、裁判所の判断を仰ぐわけですが、不動産登記がないので裁判所も判断ができません。
とんでもない話ですが、不動産登記がなかったら、おそらく当たり前に行われます。
いつ他人に取られるかわからないので、出かけることもできないでしょう。
不動産取引となれば、本当の売主がわからないので、取引をしていいのかどうかさえわかりません。
不動産登記は「簡単な仕組み」なのですが、かなりの存在意義を持っています。
公信力について
公信力とは、公(世間一般)に信じさせる力です。
(日本の)不動産登記には「公信力」がありません。
たとえば、ある不動産について、
- 買主A
- 売主B(真の所有者)
- 売主C(偽の所有者)
がいたとします。
買主Aと売主Cが売買契約を締結した場合、
- 買主Aが登記事項証明書を確認したところ、売主Cが所有者として記載されていた
- 買主Aは、売主Bが真の所有者であることを知らない
- 売主Cは、買主Aに偽の所有者であることを告げなかった
であっても、買主Aが所有権を取得する権利は保護されません。
つまり、争いごとになったときに、第三者による、
「だって、登記に書いてあるから事実だと思うじゃないか!」
は、当然に成立はしないということです。
通謀虚偽表示の場合には、公信力が成立します。
先ほどの例では、ある不動産について、
- 買主A
- 売主B(真の所有者)
- 売主C(偽の所有者)
がおり、登記の情報を信じて、買主Aは売買契約を結んだが、売主Bが真の所有者なので、所有権の取得は認められませんでした。
しかし、
- 売主B
- 売主C
の間で、意思のない売買契約(本当は売るつもりはない契約)が以前に成立していた場合には、買主Aに対して公信力が成立します。
つまり、所有権の取得が認められるということです。
対抗力について
対抗力とは、公(世間一般)に主張をする力です。
不動産登記には「対抗力」があります。
ですので、争いになったときに、第三者による、
「だって、登記に書いてあるから事実だと思うじゃないか!」
は、当然に成立はしませんが、直接関係者による、
「だって、登記に書いてあるから事実だろ!」
という主張は成り立つということです。
逆に言うと、登記に書いていないことは「主張さえできない」ということです。
たとえば、ひとつの不動産に対して、
- 所有者A(登記済)
- 所有者B(未登記)
がいたとすれば、
- 所有者A「わたしが所有者です。」
- 所有者B「わたしが所有者です。」
という主張に対して、原則として、裁判所は「所有者A」の声しか聞きません。
ただし、仮登記には対抗力がないので注意してください。
権利推定力について
権利推定力とは、登記に記録された権利が当然あるだろうと推定される力です。
不動産登記には「権利推定力」があります。
つまり、争いごとになったときに、第三者による、
「だって、登記に書いてあるから事実だと思うじゃないか!」
は、当然に成立はしませんが、そう考えられても仕方がないとは認められます。
ただし、当然に成立するものではないので、反証があれば認められません。
たとえば、ある不動産について、
- 買主A
- 売主B(真の所有者)
- 売主C(偽の所有者)
がおり、買主Aと売主Cが売買契約を結んだ場合において、
- 買主Aは、売主Bが真の所有者であることを知っていた事実がある
- 売主Cは、買主Aに偽の所有者であることを告げていた事実がある
といったときには、権利推定力が成立しません。
形式的確定力について
形式的確定力とは、登記されたことは間違いであっても無視することはできない力です。
不動産登記には「形式的確定力」があります。
たとえば、ある不動産について、
- 所有者A(真の所有者)
- 所有者B(偽の所有者)
がいたとします。
手続きの間違い(錯誤)によって、所有者Bが登記されてしまった場合、正しい所有者Aに情報を修正するには、
- 間違って登記された所有者Bの情報は残しておく
- 間違って登記された所有者Bの情報の効力のみ消す
(※記録に斜線を引く) - 正しい登記である所有者Aの情報を記録し、効力を発生させる
となります。