不動産の名義変更は、日常あまり起こることではありません。しかし、必要に迫られるときは、人生において非常に重要なタイミングです。ご親族が亡くなられて相続が発生したとき、財産分与の必要に迫られたとき、家を建てるならとご両親から土地の贈与を受けるとき、またはご自身で売買をされるなど。いざというときに備える意味でも、登記関係の手続きはぬかりなく行っておくのが安心です。
※所有している不動産について有事になる前に確認することが大事です。登記事項証明書の取得方法についてはこちらから。
なぜ不動産の名義変更をするのか?
そもそも不動産の名義変更とは?
不動産の名義変更といっても、何をどう変更するのか分からないですよね。不動産の名義変更とは、不動産登記簿に書かれている所有者の名義を変更することです。名前を変更するよりも、その権利を変更する意味合いのほうが強いです。
名義変更を怠るデメリットは以下が挙げられます。
・対象の不動産について、自分の権利を主張することができない。
・相続の場合は、相続人が増え続けることで手が付けられなくなる。
・所有権が定まっていないため、売却や融資などが出来ない。
・占有による時効成立が起こり得る。
他にもいろいろとあるのですが、基本的にいいことは一つもないです。
名義変更をする方法は?
自分で行う方法と、プロを介して行う方法の二通りあります。自分で行うときには、法務局の窓口で相談するのがよいでしょう。ただし、かなり複雑な手続きや書類の準備をすることになるので、「苦労したのに間違っていた!」なんてトラブルを招かないためにもプロに相談するのが一番です。
この記事は、プロに依頼することを前提としています。必要書類なども記載してありますが、必要最小限の情報です。
名義変更のステップ
ステップ1:所有権の確認
不動産の話を進める上では、事実確認がものすごく重要です。まずは対象の不動産について登記簿謄本を取得してください。ここで関係者の名義と一致しているかを確認して、所有権があると判明したら次のステップです。
確認する場所ですが、表題部ではありません。権利部(甲区)を確認してください。権利部(甲区)には所有権に関する事項が記載されています。
ステップ2:戸籍など必要書類を揃える
所有権がはっきりしたら、次は必要な書類を揃えます。不動産関係の手続きでは、役所の書類が必要になります。一枚でも揃っていないとお帰りくださいと言われておしまいですので、事前に何が必要なのかしっかりとリストアップしてから向かうのがよいでしょう。
また、相続の場合は銀行口座の解約なども行う必要が出てくると思います。そのときにも、戸籍などは求められますので、二度手間、三度手間にならないためにもプロに相談する意味があります。
ステップ3:法務局に登記申請をする
最後に、法務局に登記申請をします。ここまで終わってようやく所有権が相続人に移動したことになります。
名義変更の必要書類
あくまでも参考程度ですが、一般的に名義変更を行うのに以下のような書類を、取得・作成する必要があります。
・戸籍謄本
・住民票
・印鑑証明書
・登記済権利証
・固定資産税評価証明書
・登記申請書
・登記原因証明情報
などです。これらに加えて、遺産分割協議書や離婚協議書などがケースごとに必要になってきます。
相続に関する名義変更トラブル
ご親族の方がお亡くなりになられたことで急に相続の話になり、どうしていいのか分からずに困っているということはよくあることです。分からないからやめた!と放っていると、もっと困ることになります。今回は、今まで知らなかった土地が急に出てきた!という前提でお話します。
不動産を売却できない
いつまでも名義変更を行わずに放置すると、その土地の所有者は故人のままということになります。もし、この状況で土地を買いたいという人が現れたとしても、その土地は売却することができません。不動産の売却をするときには、所有者間での合意が必要であり、法的に所有者となっていない者には、売買の決定権がないからです。
なので、名義変更をしてからではないと、売買はできません。
名義変更ができない
話がさらに発展することがあります。相続人は一人とは限らず、兄弟がいるケースです。たとえば、あなたは次男で、兄と弟がひとりずついるとします。
あなたと弟は仲がよいのですが、兄とは険悪な関係にあります。話をするのが面倒だからと思い、所有権をはっきりさせる話し合いを避けていました。そんなところに売却の話が入ってきて、あなたと弟さんは前向きです。いざ、兄に相談しに行こうとしたところ、なんと兄は亡くなっていました。
このようなとき、兄の相続権はすべて相続人に引き継がれます。兄の相続人が奥様一人とか、ご子息3人であるというくらいは、まだいいです。相続人の中に、消息不明のものがいるとなったりすると非常に面倒なことになります。
なぜかというと、相続人がはっきりしていない不動産や、共有している不動産の売却には、権利者全員の同意が必要だからです。売りたい!と思っていたとしても、一人でも欠ければ売却ができません。
名義変更などの期限
法律上は、いつまでにしなければならないという期限は定められていません。ここで勘違いをしてはいけないのが、放っておけば相続放棄になるわけではないという点です。むしろ、放っておけば自然と相続人に相続されたことになります。
法律上では、相続放棄の意思表示をする期限は、3ヶ月以内と定められています。その期間内に相続放棄を行わなかった場合には、相続したこととみなされます。相続税の申告期限は10ヵ月以内ですので、お気をつけください。
相続に関するトラブルは、挙げ始めればきりがありません。どれも手が付けられなくなる可能性を秘めていますので、しっかりと行うことをおすすめします。
財産分与に関する名義変更トラブル
もっとも代表的なケースは離婚です。離婚をするにあたって、財産をきっちりと分配するために、名義変更が必要になってきます。今回は、自分たちで建てた家をどうするのかということを前提にお話を進めます。
子どもを巻き込む可能性と特別代理人
購入時には、お互いに持分を2分の1ずつにしていたとします。所有権をはっきりさせることなく、そのまま放置をしていた場合、共有資産のままになります。すると、もし売却という話になったときには、双方の同意が必要になってしまいます。
ここで親権を取得したのが母親で、もしも母親が亡くなってしまうと、子どもは相続人ということになります。子どもと良好な関係が築けているのならば問題はありませんが、そうでない場合には話が進まなくなります。さらに、子どもが未成年であったとしたらどうなるでしょうか。
法律上、未成年者は法律行為を行えないことになっていますので、通常であれば親権者が代理人となります。しかし、このケースでは親権者が代理人となってしまった場合、事実上、親権者のみに相続権が継承されたことになってしまうため、それは認められません。そうすると、特別代理人といって第三者が話に入ってくる可能性も十分にあるのです。
財産分与の請求期限
財産分与を請求するときにも、相続のように期限が存在します。2年以内に請求をしなければ、基本的には請求権を失うことになります。相続ほど早く期限はきませんが、あっという間に月日は過ぎますので、しっかりと対処しておくのがよいでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。どのようなケースにおいても、しっかりと名義変更をしないことは、いらぬトラブルを招くもとになります。名義変更と聞くと、「名前を書き換えるだけでしょ。」とお考えの方も多くいらっしゃいますが、実際には「権利の書き換え」の意味合いが強いのです。
詳しくは触れていませんが、相続するときは、正の遺産だけでなく、負の遺産も引き継ぐことになります。安易に土地がもらえる!などと考えると痛い目にあいますので、事実関係をしっかりと確認して、話の全容を明らかにしてくれるプロに相談してください。急に沸いてきた土地の話などは、特にそういう背景が潜んでいることが多いです。
数万円~数十万円を惜しんだがために、数百万円~数千万円のトラブルに発展してしまったとしたら。そのときには、もう誰も手が付けられません。