日本のように国土が少ない国では、土地の有効活用は経済成長に不可欠な要素です。地方の郊外や、発展の著しい都会では、土地の利便性を向上させるために整地する必要があります。都市計画に従って、一帯の土地を整備する事業を土地区画整理事業といいます。
今回の記事では、土地区画整理事業の概要と認可までの流れについて解説します。まずは、大まかな流れや目的についてざっくりと理解します。その後、土地区画整理事業の中でも認可までの流れについて詳しい解説をします。
この記事からわかること
- 土地区画整理事業の概要
- 土地区画整理事業の認可
土地区画整理事業の概要
まずは土地区画整理事業の全体像をざっくりと把握します。土地区画整理事業は、かなり細かい手順を踏んで進行しますが、目的や流れを大まかに把握しているほうが深い理解もしやすいです。下図は、土地区画整理事業についてのイメージ図です。
左が区画整理前の状態です。Aさん、Bさん、Cさんの土地が不整形地として混在しています。土地を有効活用しようにも、あまりにも形が悪いので無駄が生まれてしまう状態です。
右が区画整理後の状態です。Aさん、Bさん、Cさんの土地が整形地になり、道路なども整備されました。土地の有効活用もしやすく、様々な形態に対応できる状態です。
区画整理前の土地のことを「従前の土地」といいます。区画整理後の土地のことを「換地」といいます。Aさんの従前の土地は、A'という換地になりました。
区画整理前には、A・B・Cという3筆の土地しかありませんでした。しかしながら、区画整理後には、A'・B'・C'の3筆のほかに「保留地 or 公園」という土地が生まれています。なぜか?を説明します。
例
仮定:A土地について、従前の土地は100坪あり、坪単価が10万円だったとする
A :従前の土地 = 100坪 × 10万円/坪 = 1,000万円
区画整理を行った結果、土地の価値があがり、坪単価が12.5万円になりました。従前の土地と換地は「交換」されるので、換地は1,000万円分だけ渡されます。
A':換地 = 1,000万円 ÷ 12.5万円/坪 = 80坪
※あくまでも例であり、実際には減歩などの関係でより少ない坪数になり得ます。
区画整理を行えば、道路も整備され、整形地となることで、土地の価値があがります。結果として、少しずつ余分な土地が出てきます。それらの土地をすべて合わせて「保留地 or 公園」という土地が生まれます。
保留地とは、何に使うか決めていない土地のことで、売って区画整理事業の資金にしたりします。公園は、新たに生まれた地域のための公園です。
減歩(げんぶ)
土地区画整理事業では、土地の買収や収用を行わず、地権者から一定の割合で土地を提供してもらうことで事業を完了させます。道路や公園などの公共施設用地を確保できるのは、減歩のおかげです。区画整理事業の進展には、地域全体の利便性が向上するという利益に納得できるかどうかがカギとなります。
土地区画整理事業(事業の認可)
土地区画整理事業について、より詳しく解説していきます。
主な施工者
以下は、土地区画整理事業を行う施工者です。
- 個人施工者
- 土地区画整理組合
- 区画整理会社
- 都道府県、市町村
- 国土交通大臣
- 独立行政法人都市再生機構
- 地方住宅供給公社
上から3つ(個人施工者、土地区画整理組合、区画整理会社)は、施工区域外でも事業を行うことができ、施工区域内で事業を行う場合には都市計画事業となります。なので、調整区域でも事業を行えます。これらを民間施工といいます。
そのほかの4つ(都道府県・市町村、国土交通大臣、独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社)が施工者の時には、施工区域内でのみ事業を行うことができ、かならず都市計画事業となります。これらを公的施工といいます。
施工者:個人施工者の場合
施工者が個人施工者の場合に、事業が認可されるまでの流れについて解説します。
個人施工者の要件
個人施工者として認められるには、宅地について所有権または借地権を有する者である必要があります。ここでいう宅地とは「公共施設のように供されている国または地方公共団体の所有する土地以外の土地」と定義されており、一般の誰かが所有している土地のことをいいます。
また、宅地について所有権または借地権を有する者の同意を得た者も、個人施工者として認められます。ただし、独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社その他事業に必要な資力、信用、および技術的能力を有する者で政令で定める者に限ります。
個人施工者の要件
- 宅地について所有権または借地権を有する者
- 宅地について所有権または借地権を有する者の同意を得た者
事業の認可までの手続き
まずは、規準または規約を策定します。個人施工者が1人の場合に規準といい、複数名の場合に規約といいます。規準・規約の策定が終わると、事業計画の策定を行います。
都道府県知事への認可の申請は、市町村長を経由して行います。都道府県知事に認可を受けたのち、公告をします。ただし、事業計画の認可の申請を行うには、一定の同意などを得る必要があります。
事業計画についての同意
宅地以外の土地を施工地区に編入しようとする場合には、その土地を管理する者の承認を得なければいけません。宅地以外の土地とは、公共施設の用地などであり、すでにある公園や学校などが該当します。
また、宅地についても所有者以外に関係権利者がいる場合には、関係権利者の同意も得る必要があります。抵当権者などが該当します。ただし、関係権利者については、同意が得られない、または確知することができない場合には、理由を記載した書面を添えて、認可の申請をすることができます。
事業計画などの変更
一度決まった事業計画など(規準・規約を含む)を変更する場合には、その変更について都道府県知事の認可を受けなければいけません。土地区画整理事業では、一帯の土地開発を行うので、とても多くの人が関係者になります。それらの関係人の同意によって事業計画が策定され、都道府県知事の認可を受けているので、軽微な変更だとしても、再認可を受ける必要があります。
施工者:土地区画整理組合の場合
施工者が土地管理整理組合の場合に、事業が認可されるまでの流れについて解説します。
定款および事業計画(または事業基本方針)の策定
宅地について所有権などを有する者が共同して、定款および事業計画を定めます。これらを定めるときには、必ず7人以上が共同して定めなければいけません。定款とは、一定の組織や活動について定めた根本規則が記載されている書類です。
また、事業計画の決定前に、土地区画整理組合を設立する場合には、定款および事業基本方針を定めなければいけません。事業基本方針には、施工地区および施工の方針を定めます。
借地権の申告
計画区域内の宅地について、所有権と借地権を持っている人がいます。まずは、土地区画整理事業の計画区域であることを認識してもらう必要があります。最初のステップとして、計画区域を管轄する市町村長に公告の申請をします。
市町村長による公告がなされると、計画区域内の宅地について未登記の借地権を有する者は、公告の日から1か月以内に市町村長に対して申告をしなければいけません。期間内に申告がなかった者で、未登記の場合は、借地権はなかったものとみなされてしまいます。
所有者、借地権者の同意
借地権の申告が終わると、所有権者と借地権者が確定します。事業者は、定款および事業計画または基本方針について、確定した権利者のうち、それぞれ3分の2の同意を得なければいけません。また、同意を得た者の宅地および借地の総面積の合計が計画区域の3分の2を占めている必要があります。
知事の認可(組合を事前設立する場合)
事業計画が決定する前に、土地区画整理組合を設立する場合には、この段階で知事の認可を受けることができれば、組合の設立が成立します。この時には、あらかじめ事業計画案を作成し、周知します。案について組合員は意見書を提出することができますが、事業基本方針で定めた事項については意見書を提出することができません。あくまでも、認可・成立したのは組合であり、事業計画ではありません。
宅地以外の土地の管理者の承認
宅地以外の土地を計画区域に入れる場合には、その土地の管理者の承認を得る必要があります。
事業計画の縦覧と意見書の提出
様々な関係者の同意・承認が得られ、計画が固まった段階で、認可の申請を行います。認可の申請は、市町村長を経由して、都道府県知事に行われます。認可の申請があったときには、都道府県知事は事業計画を2週間にわたって一般の縦覧に供しなければいけません。
土地区画整理事業に関係のある土地または土地の定着物について権利を有する者は、都道府県知事に意見書を提出することができます。意見書の提出期限は、縦覧期間が満了した翌日から起算して2週間までとされています。意見書の提出があった場合には、内容を審査したうえで、事業計画の修正または提出者に却下の通知をする必要があります。
都道府県知事の認可・公告
最終的に、申請が認可基準に適合していると認められる場合には、都道府県知事は認可・公告をします。通常の流れであれば、都道府県知事の認可・公告をもって、土地区画整理組合設立と土地区画整理事業の認可が同時に成立します。
しかし、組合を事前設立する場合には、すでに土地区画整理組合の設立は成立しています。なので、土地区画整理事業の認可のみが成立します。
施工者:区画整理会社の場合
施工者が区画整理会社の場合に、事業が認可されるまでの流れについて解説します。
区画整理会社の要件
区画整理会社は、会社といっているように区画整理事業を「一個の法人」として扱います。そのため、宅地について所有権や借地権を有する者を株主とし、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 土地区画整理事業の施工を主たる目的として設立されること
- 株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めが定款に記載されていること
- 計画区域内の宅地について所有権または借地権を持つものが、総株主の議決権の過半数を保有していること
- 議決権の過半数を保有している者および当該株式会社が所有する計画区域内の宅地の地積と、それらの者が有する借地権の目的となっている計画区域内の宅地の地積の合計が、計画区域内の宅地の総地積と借地権の目的となっている宅地の総地積との合計の3分の2以上であること
事業認可までの手続き
手続きの流れは、土地区画整理組合のケースとほぼ同じです。「知事の認可(組合を事前設立する場合)」のみなくなります。また、区画整理会社は、都道府県知事の認可・公告を受けたのち、本店所在地において設立の登記をすることにより成立します。
施工者:都道府県、市町村の場合
施工者が都道府県、市町村の場合に、事業が認可されるまでの流れについて解説します。
事業認可までの手続き
公的施工となるので、事業認可までの手続きはかなり簡単になります。
都道府県または市町村は、土地区画整理事業を施工しようとするときには、まず、施工規定および事業計画の策定をします。施工規程は都道府県または市町村の条例で定めます。
次に、事業計画(案)を2週間にわたって一般の縦覧に供します。利害関係者は、縦覧期間が満了した翌日から起算して2週間まで、都道府県知事に意見書を提出することができます。
最後に、認可を受けるのみです。都道府県が施工者の場合には、国土交通大臣の認可を得ます。市町村が施工者の場合には、都道府県知事の認可を得ます。
施工者:国土交通大臣の場合
施工者が国土交通大臣の場合に、事業が認可されるまでの流れについて解説します。
国土交通大臣が施工者となるためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 国の利害に重大な関係がある土地区画整理事業であること
- 災害の発生、そのほか特別の事業により急施を要すること
- 国土交通大臣が施工する公共施設に関する工事と併せて施工する必要があるか、都道府県もしくは市町村が施工することが著しく困難であること
上記を満たしている場合には、自ら施工することができます。それ以外の場合には、都道府県または市町村に施工を指示します。
事業認可までの手続き
事業計画の決定前には、一般への縦覧が2週間行われます。縦覧期間満了の日の翌日から2週間を経過する日まで、意見書の提出ができます。施工規定は、省令によって定められます。
都市計画法第59条3項にて「国の機関は、国土交通大臣の承認を受けて、国の利害に重大な関係を有する都市計画事業を施行することができる。」と定められています。よって、施工者が国土交通大臣の場合には、上記の手続きが完了次第、事業計画が決定となります。