日本では、年々空き家問題が深刻化しています。
2030年には、空き家率が3割を超えるという予測もあります。
民泊や、空き家バンクなど行政・民間でさまざまな取り組みが進む一方、お金につながりにくいという理由で問題解決がなかなか進まないのも事実です。
今回紹介するのは、山形県鶴岡市が行っているランドバンク事業についてです。
NPO法人 つるおかランド・バンクと共同で行っている空き家・空き地問題解決への取り組みについてお話します。
空き家・空き地の放置は「公害」という認識
国民ひとりひとりが意識すべきことですが、空き家・空き地の放置は「公害」を生んでいるのに等しいです。
とくに日本のように国土が豊富とはいえない国では、土地問題は国民の生活全体に直接影響をおよぼす問題です。
何度か機会をいただき、空き家の実態調査をお手伝いしたことがあります。
空き家(と思われる不動産)に1軒1軒まわり、状況を調べます。
調べるときには、
- 不動産そのものの状態(家屋の傷み・庭に茂る草木の状態・人の出入りの気配)
- 周辺への聞き込みによる所有者情報の取得
- 周辺への聞き込みによる生活への影響の判断
などを行います。
調査の深さをどのくらいにするかで変わりますが、意味のある調査にするためには、かなりの時間と労力がかかります。
空き家・空き地の調査をしていくと一定の確率で耳にするのは、
- 上から物が落ちてきた
- 子供が遊ぼうとする
- 窓ガラスなどが(いたずらなどによって)割れる
- 動物が住み着く
という苦情です。
当該物件がある特定の地域に限られるので、普段の生活ではあまり耳にしませんが、周辺住民にとってはかなり大きな悩みの種になります。
2030年に空き家率が3割を超えた場合、全国いろいろなところで問題が頻発することが考えられます。
居場所を失った野生動物によるマダニのトラブルが話題になりましたが、空き家・空き地の放置も似たような流れで「公害」になる可能性があります。
山形県鶴岡市とNPO法人「つるおかランド・バンク」による都市のデフラグ
山形県鶴岡市は、NPO法人「つるおかランド・バンク」と共同で、空き家・空き地問題を解決するための先進的な取り組みを行っています。
都市機能を維持するためには、一定の人口が必要です。
人の数が減ってしまえば、均一なサービスの提供も難しくなり、そもそもの管理ができなくなります。
地方(および地方都市)では、人口減少による都市機能の低下を解決するために「コンパクトシティ」が推進されています。
コンパクトシティとは
都市開発(都市施設、人口など)を特定のエリアで行うことで、機能を集約し、使いやすさと管理コストを改善する取り組みのこと。
CDの裏面で例えると、真ん中の穴が「都心」です。
真ん中の穴から容量(都市施設、人口など)が増えるごとに、使われているディスクの裏面(都市の広がり)は拡大していきます。
人口が伴っていたときにはよかったのですが、人口減少に転じたことにより、使用済みのところにムラ(空き家・空き地)ができるようになりました。
ムラによる音飛びが増えると、CDの使い心地は下がります。つまり、都市全体の使い心地が低下します。
ムラを増やさないようにするために、真ん中の穴(都心)にできるだけ新しいデータ(将来の都市開発・人の流れ)を集めるようにするのが「コンパクトシティ」の取り組みです。
しかし、コンパクトシティを推進するにも「放置された空き家・空き地」が増え続ければ、効率的な計画推進も阻害されます。
山形県鶴岡市とNPO法人「つるおかランド・バンク」が共同ですすめているのは、「ムラ」そのものを除去する作業です。
具体的には、
- 空き家
- 空き地
- 機能していない道路
などを最適化することで、土地の価値を復帰させています。
空き家、空き地、機能していない道路によって、周辺の土地の利用価値は大幅に減退します。
空き家、空き地、機能していない道路を再整備することで、土地本来の価値(たとえば、宅地にするなど)を回復させることができます。
デフラグとは、データのたまりカスを整理して、パソコンの処理速度を上げる作業です。
整理された本棚では、目的の本をすぐ見つけることができますが、ぐちゃぐちゃだと探すのに手間がかかります。
デフラグをすることで、情報へのアクセス速度をあげて、パソコンの性能を回復させていました。
山形県鶴岡市とNPO法人「つるおかランド・バンク」の取り組みは、まさに都市のデフラグです。
問題点
問題点は「空き家・空き地」であるということです。
不動産トラブルの解決は、表面的なことよりも、権利的なことがネックになるのが基本です。
空き家・空き地とはいえ、所有者がいます。
所有者がいれば、所有権があるわけです。
いくら行政といえども、個人の所有物を勝手に壊したりすることはできません。
空き家対策措置法によって、特定空き家であれば、行政代執行による解体が行えるようになりましたが、依然として手続きに相当な時間がかかります。
さらに、あくまでも「代執行」ですので、一時的とはいえ税金を投入します。
もともと解体などができない事情(金銭的なことも多い)によって放置されているので、所有者から解体費用などを回収するのも相当な手間がかかります。
空き家問題は、「わたしには関係がないだろう。」と思っている方も、身近な問題になる可能性が高いのです。
今後、
- 行政の後押し
- 民間の努力
も必要になると思いますが、個人が「空き家になりそうな(または既になっている)所有財産」をどうするか真剣に考える必要があるのではないでしょうか。