相続の話というのは、十分な準備がしにくいものです。親族が病になり、日に日に弱っていくところを目の当たりにしているときには、相続のことまで気が回らなかったりします。どこか欲深いようで、わかってはいても動きにくいなぁと感じることもあるでしょう。
今回は、手遅れになるまでの事前知識として遺贈について解説します。遺贈と相続を同じものだと勘違いしているケースもあります。遺贈と相続は根本的に違うものであり、遺贈が火種となって「争続」に発展するケースは多々あります。
慌しさに負けて、しっかり考えることなく相続が終わってしまわないように。まずは、相続と遺贈のいろはについて知っておきましょう。
【この記事からわかること】
- 遺贈とは
- 相続とは
- 遺贈と相続の違い
- 特定遺贈とは
- 包括遺贈とは
- 遺贈の放棄
- 遺贈の寄付
遺贈とは
遺贈とは
遺贈とは、遺言によって財産を誰かに譲ることを指します。相続する財産の所有者(亡くなった方)を被相続人と呼びます。この被相続人が作成した遺言書によって、相続人(残された家族など)へと財産を譲ることを遺贈といいます。被相続人が財産を譲る側で、相続人が財産を譲ってもらう側になります。
遺贈は、遺言によって財産のすべてか一部を、無償で相続人や相続人以外の人に与えることができるのです。無償ではなく、一定の負担を条件として与えるというパターンもあります。すでにパートナーは亡くなってしまったが、まだ小さな子供がいるときなどに、近親者や信用できる友人に面倒を見てもらうことを条件に金銭を譲るなどのケースです。
遺贈においては、遺贈を受ける人のことを受遺者(=相続人)と呼ぶこともあります。民法では、血縁者の中から相続人になれる人が決められており、それを法廷相続人と呼びます。受遺者というのは、法定相続人の枠組みを飛び越えて指名を受けることができます。極端な話をすれば、何のつながりもない赤の他人に財産を譲るということも可能なのです。
遺言書は、絶大な威力をもっています。遺贈は、その遺言によって履行されるので効力がとても強いのです。ただ、効力が強いといっても遺留分を覆すことはできません。遺留分とは、残された家族のために法律によって守られている最低限の財産のことです。また、被相続人よりも先に受遺者が亡くなってしまった場合には、その遺贈は無効になってしまいます。
遺贈は、相続と混同されやすいのですが、まったくの別ものです。次で相続についてお話していきましょう。
相続とは
相続とは
遺贈と混同されやすい相続についですが、一般的にもよく知られている言葉です。遺産相続といえば、テレビドラマや小説の中でもよく登場するものです。近年では、トラブルにスポットをあてて「争族」という言葉もよく耳にします。
相続というのは、被相続人が亡くなった場合に、その財産を相続人が受け継ぐ制度です。財産だけではなく、地位なども相続人に引き継がれるケースも少なくありません。ただ、相続というと一般的には亡くなった人の財産、つまりお金をもらえるものと考えられている節があります。確かに財産として多額の貯金が残されているときには、相続でまとまったお金を得られる可能性もあるでしょう。しかし、財産というのは何もプラスのものばかりではないのです。
というのも、マイナスの財産が残されている可能性もあるのです。簡単に言ってしまえば、借金です。相続では、プラスやマイナスに関係なく、相続人に被相続人の財産が引き継がれます。なので、場合によっては借金を引き継ぐ可能性も十分にあるのです。
相続というとお金がもらえるイメージがあるかもしれませんが、実際にはこういった借金を背負わされるというケースもあります。遺贈と混同されやすい相続ということでお話しましたが、次では遺贈と相続の違いについてお話していきましょう。
遺贈と相続の違い
遺贈と相続の違い
ここでは、混同されやすい遺贈と相続の違いについてお話していきましょう。どちらも亡くなった人の財産を別の人が引き継ぐという点では同じです。しかし、細かく見ていくとまったく別ものであることがわかります。
まず、一般的に相続というのは、被相続人が法定相続人に財産を譲ることを指します。法定相続人というのは、民法で定められた相続人のことですね。家族や身内など、ごく近親の者たちと考えてください。つまり、相続というのは家族や身内に限定された問題になるのです。
一方で、遺贈になると家族や身内だけの問題ではなくなってきます。というのも、遺贈の場合には法定相続人以外のまったく無関係の人にも財産を譲ることができるのです。
また、相続の場合には、プラスの財産でもマイナスの財産でもそのすべて引き継ぐことになります。しかし、遺贈は、遺言書に書かれている内容にそって財産分割を行うので、非常に自由なかたちをとることができます。つまり、財産のすべてを引き継ぐのか、その一部だけを引き継ぐのかといったことができます。同様に、無条件の贈与か、条件付の贈与なのかというところも違いのひとつです。
他には、相続を受ける人のことを相続人、遺贈を受ける人のことを受遺者と呼びますので、こういった呼び方の違いもあります。
特定遺贈とは
特定遺贈とは
先では遺贈についてお話しましたが、遺贈にはふたつの種類があります。ひとつが特定遺贈、もうひとつが包括遺贈というものです。ここでは、まず特定遺贈についてお話していきます。
特定遺贈というのは、遺贈する財産を指定してから相手に譲るというものです。AとBだけあげるといったような、特定のものを遺贈することです。
例えば、財産としてお金と不動産が残されていた場合を考えてみましょう。お金は○○さんへ遺贈、不動産は△△さんに遺贈するといった具合になります。特定遺贈の場合には、基本的に遺言で指定がない限り、残された借金などのいわゆるマイナスの財産に関しては引き継ぐことはありません。
非常に魅力的に思える特定遺贈ですが、実際には法定相続人とのトラブルに発展することも珍しくはありません。というのも、第三者に特定遺贈がされる場合、法定相続人が納得できないというケースが多いのです。あまり気持ちの良い話ではないですが、相続財産のことを考えて離婚を我慢し続けてきた奥様などからすれば、愛人に不動産をひとつ譲ると書いてあったら許しがたいでしょう。
司法書士や弁護士などの専門家に間に入ってもらうことによって綺麗におさまることも多いのですが、ケースバイケースで遺言通りにはならないという可能性もあります。受遺者にとっては魅力的に見える特定遺贈ですが、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあるのです。
包括遺贈とは
包括遺贈とは
次に、包括遺贈についてお話していきましょう。包括遺贈というのは、わかりやすい例を挙げると「全財産の半分を○○さんに遺贈します」ということです。残された財産の全部か、全財産の一定の割合を指定しておこなう遺贈のことをいいます。特定遺贈では、財産自体を指定していましたが、包括遺贈では割合しか指定していないところが大きな違いです。何を遺贈するかまでは決まっていないのです。
基本的に相続人と受遺者というのは異なる立場とされているのですが、包括遺贈の場合に限り、受遺者は相続人と同じ立場になります。そのため、相続人が負っている権利義務を受遺者も負うことになるのです。つまり、仮に借金などのマイナスの財産が残されていた場合、受遺者も遺贈された割合に従って、そのマイナスの財産を引き継ぐことになります。マイナスの財産を引き受ける可能性があるということで、受遺者にとってはあまり嬉しくない遺贈といってもいいでしょう。
ちなみに、受遺者というと個人のみのイメージがあるかもしれませんが、法人であっても包括遺贈の受遺者になることができます。マイナスの財産も引き継ぐことになるということで、遺贈を放棄したいという人も出てくるでしょう。その場合には。遺言の内容を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所への手続きをしなければいけません。特定遺贈に比べると、いろいろなところでマイナス面が目立ってくる遺贈であるといっていいでしょう。
遺贈の放棄
遺贈の放棄
包括遺贈の最後のほうで「遺贈の放棄」ということにも触れましたが、ここでは遺贈の放棄についてお話していきましょう。基本的に、遺言によって受遺者に指定された人というのは、その遺贈を放棄することもできるようになっています。先では、特定遺贈と包括遺贈についてお話しましたが、それぞれで遺贈の放棄方法は異なります。
包括遺贈の放棄は、原則として遺言の内容を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で放棄のための手続きを取ることになります。もしこれをしなかった場合には、遺贈を受け入れるものとみなされます。
一方で、特定遺贈の場合には、放棄の手続きのための期限というのはありません。そのため、いつでも放棄をすることができます。しかしながら、特別遺贈では相続人と揉める可能性が高いので、放棄するのか受け入れるのかは早い段階でハッキリとさせたほうがいいでしょう。
また、特定遺贈では、相続人は、受遺者に対して特定遺贈を受けるのか受けないのかを確認するための催告をすることができます。この催告によって突然に期間が決められることになります。突然のこととはいえ、期限内に答えを出さなければなりません。もし、何もしないままであれば遺贈を受けることとして処理されることになります。
遺贈の放棄をする場合には、内容証明などで相続人に伝えるようにしましょう。
遺贈の寄付
遺贈の寄付
これまで遺贈について説明してきましたが、遺贈というのは、遺言があれば相続人以外のまったく関係のない人や団体へ財産を譲ることができます。身寄りがない人などであれば、慈善事業団体に全財産を遺贈するということも珍しくはありません。
遺贈の寄付ということになるのですが、これにはまず遺言書の作成が必要になってきます。自筆証書遺言や公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があるのですが、一番確実なのは公正証書遺言です。というのも、原本が公証役場で保管されることになりますので、亡くなった後で自分の希望通りの遺贈がなされる可能性が高くなってくるのです。
遺言書作成にあたっては、弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら進めていくといいでしょう。その際には、「遺贈の寄付をしたい」ということをハッキリと伝えておきましょう。遺言書の作成の際には、具体的にどのような財産があり、その財産をどの団体に寄付するのかということを明記しておきたいものです。
もし、事前に寄付したい団体が決まっているのであれば、その団体に直接「遺贈の寄付をしたいのですが・・・」という形で相談をしておくのもいいでしょう。団体としても寄付してもらえるのは大変ありがたいことになりますので、前向きに相談に乗ってくれるはずです。弁護士や司法書士などの紹介もしてくれるかもしれません。
このように相続人がいない、個人に遺贈する気はないということであれば、遺贈を寄付するというのもひとつの選択になります。
まとめ
遺贈とは、法定相続人の制約を受けない財産贈与の方法です。血縁者ではなくても、財産を譲るものとして指名することができます。それゆえに、血縁者(親族)と第三者間でのトラブルに繋がりやすいデリケートな方法です。
相続とは、法定相続人の制約がある財産贈与の方法です。基本的には、あらかじめ法律で定められた分配方法に従って財産贈与が行われます。血縁者(親族)の間で行われるので、遺贈よりはトラブルになりにくい性質があります。
遺贈と相続は、まったく別のものです。混乱しそうになるのですが、第三者が介入できるのかできないのかで区別してください。もっとも大きな違いです。
特定遺贈とは、特定の財産のみに限定して遺贈が行われることです。Aはあげるけど、Bはあげないといったことができます。特定遺贈がもっともトラブルに繋がりやすい遺贈です。
包括遺贈とは、全体の何割といったかたちで行われる遺贈です。この方法の場合は、プラスの財産もマイナスの財産も同じ割合で引き継ぐことになります。なので、第三者とはいえ公平感があるため、特定遺贈に比べるとトラブルに発展しにくい性質を持っています。
遺贈は放棄することもできます。包括遺贈を放棄するときは、遺言の内容を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行ってください。特定遺贈の放棄には、原則期限はありません。しかし、他の遺贈者や相続人には催告権があるので注意しましょう。
遺贈によって寄付をおこなうときには、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。もっとも確実に履行されるのは、公正証書遺言です。公正証書遺言を作成するときには、弁護士に相談して進めるようにしましょう。