不動産の売却

【不動産売却】築8年、転勤後に賃貸運用していた自宅の売却

相談内容:築8年、転勤後に賃貸運用していた自宅を売却したい

今回、売却の依頼を受けた不動産は、8年前に購入した自宅です。

購入当時は定住予定でしたが、仕事の関係で転勤が決まり、5年前に県外に転居されました。

転居後は、賃貸住宅として貸し出して運用を行なっており、相談受付当時も賃貸中でした。

転勤の心配もなくなったため、転居先で新築することになり、不要になった旧自宅を売却できないだろうかと考えたようです。

また仕事が忙しく、行き来をすることは難しい状況にありましたので、往来せずに売却をしたいという要望もありました。

課題1:賃貸したまま売却できるのか?

誰かに貸したままでの売却は可能です。

オーナーチェンジ物件と言われ、

  • 家主(オーナー)間でのみ所有権の移転が行われる
  • 通常、借主にオーナーが変わったことを通知するが、そのまま住み続けることができる

といった不動産売買を行います。

まごころう

ただし一般的な販売と異なるので、査定方法および査定価格に影響があります。

詳細は後述します。

課題2:新築するときには、旧自宅を売却しなければいけないのか?

旧自宅を売却しなければいけないわけではありませんが、多くの場合、売却しなければいけない状況の方が多いです。

なぜなら旧自宅を売却して既存の住宅ローンを完済してしまわなければ、新築する住宅の購入資金(住宅ローンの借入可能額)に影響を及ぼすためです。

旧自宅を購入した際に、

  • 住宅ローンを使わずに、全額自己資金でまかなった
  • 住宅ローン残高が残っているが、全額自己資金で返済できる

といった場合には影響がありませんが、住宅ローン残高が残ってしまう場合には、

  • 残債の額に応じて借入可能額が下がる
  • そもそも借入ができない

といった影響が新規借入に対してあります。

まごころう

銀行によっては、旧自宅が一定の想定額および期間で売却できることを見越して、新規借入を独立して組むことができるケースがあります。

上記の場合には、住宅ローンの支払いが重複しないように、いずれかの住宅ローンを一定期間据え置きにするのですが、

  • 設定期間内に売却できなかった場合には、住宅ローンの支払いが重複する
  • 設定期間内に売却できたが、想定していたより安かった場合には、残債の一括返済を求められる

など、リスクが伴います。

計画が順調に進むかは、

  • 不動産業者が行う査定の正確性
  • 不動産業者の販売能力

などに大きく左右されますので、注意が必要です。

課題3:他県に存在する不動産を往来せずに売却できるのか?

通常の方法に比べると、若干手続きと費用が増えますが、往来せずに売却することは可能です。

解決しなければいけない課題は、

  • 鍵などの受け渡し
  • 媒介契約の取り交わし
  • 不動産売買契約の取り交わし
  • 司法書士と行う本人確認
  • 登記記載住所と住民票記載住所が異なること

などが挙げられますが、

  • 鍵などの受け渡し
    → 覚書を残した上で、郵送によるやりとり
  • 媒介契約の取り交わし
    → 郵送によるやりとり
  • 不動産売買契約の取り交わし
    → 郵送の上、電話やウェブミーティングによるやりとり
  • 司法書士と行う本人確認
    → 司法書士に追加報酬(出張料など)を支払う
  • 登記記載住所と住民票記載住所が異なること
    → 住所変更登記を行なって、登記記載住所を住民票記載住所と一致させる

によって解決できます。

まごころう

どのくらい離れているのかにもよりますが、

  • 交通費
  • 宿泊費
  • 休暇取得

などを加味すると、費用を払って解決した方が楽です。

旅行気分で楽しみも兼ねてといったことであれば、ご自身で行かれてもいいのかと思います。

補足1:住宅ローンが残っている状態で貸し出すことはできるのか?

住宅ローンが残っている状態で貸し出すことは、原則として金融機関が認めません。

ただし止むを得ない正当な事由があり、金融機関が了承した場合には、賃貸として貸し出すことができます。

まごころう

住宅ローンは、自己居住用財産に対する貸付です。

本人が居住しない場合には、貸付目的から外れますので、金融機関は、約款上、即時の一括返済を求めることができます。

金融機関への相談を欠いて賃貸を行い、バレたときに悪質だと判断された場合には大変なことになります。

物件概要:大和ハウス工業施工の築浅(築8年)中古一戸建て

本事例で取り扱った不動産について、概要を簡単に説明します。

全般
物件種別 中古一戸建て
現況 建付地
入居状況 空家
権利種類 所有権
その他 売出前は賃貸利用

中古一戸建ての売却事例となります。

賃貸として貸し出しをしていましたが、売却開始時には退去いただき空家として販売開始しました。

そのほか、特殊な事情はありませんでした。

土地
土地面積 156.21㎡
地目 宅地
土地形状 整形地
角地・非角地 非角地
都市計画区域
都市計画区域内
市街化区域
用途地域 準工業地域
建ぺい率 60%
容積率 200%
防火地域 指定なし
上水道 公共上水道(引き込み済)
下水道 公共下水道(引き込み済)
前面道路種類 公道
前面道路幅員 幅員6.22m
接面距離(間口) 間口7.21m
セットバック要否 不要
その他 なし

土地面積は156.21㎡(47.25坪)です。

角地ではありませんが、形状の整った整形地で、地目も宅地です。

間口は7.21mありましたので、普通乗用車3台をゆとりを持って駐車することはできませんが、なんとか3台駐車できる程度には確保できていました。

都市計画区域内かつ市街化区域内に位置しており、準工業地域ではあったものの、周辺は閑静な住宅街でした。

そのほか、不動産価値に影響するようなマイナス要素はなく、条件の整った土地だったと言えます。

建物
建物面積
1階:59.81㎡
2階:50.56㎡
延床:110.37㎡
建物構造 軽量鉄骨造スレートぶき2階建
間取り 3SLDK
築年数 築8年(売出当時)
駐車台数 3台
施工会社 大和ハウス工業株式会社
電気 オール電化
ガス 都市ガス(未開栓)
上水道 公共上水道(宅内引き込み済)
下水道 公共下水道(宅内引き込み済)
その他 なし

建物面積は110.37㎡(33.38坪)です。

大和ハウス工業株式会社施工(xevoシリーズ)の築8年が経過した軽量鉄骨造スレートぶき2階建でした。

間取りは3SLDKで、裏側にちょっとした庭がありましたので、多少のゆとりを感じながら生活できる質の良い住宅でした。

オール電化住宅でしたので、開栓はしていませんでしたが、都市ガスエリアに位置し、上下水道も公共上下水道が宅内引き込み済で、インフラも整っていました。

まごころう

不動産価値に主だった問題はなく、5段階評価を行うのであれば、★4 〜 ★5を付けることができる案件でした。

査定内容:査定価格3,280万円

以下、査定内容の詳細です。

土地
地目 宅地
地積 156.21㎡(47.25坪)
権利 所有権
建物
種別 居宅 築年数 8 構造 軽量鉄骨造スレートぶき2階建て
床面積
1階:59.81㎡(18.09坪)
2階:50.56㎡(15.29坪)
延床:110.37㎡(33.38坪)
間取 3SLDK 付属建物 無し
備考 大和ハウス工業施工(xevoシリーズ)

軽量鉄骨造の建物ですので、一般的には19年〜27年で償却が終わると考えられます(鉄骨厚により変動)。

しかし本件では大和ハウス工業施工のxevoシリーズで建てられておりますので、耐用年数を50年として設定をしました。

都市計画法
都市計画区域内 開発行為の有無
市街化区域 計画道路の有無
建築基準法
用途地域 準工業地域
建ぺい率 60% 容積率 200%
日影規制 有り 地区計画 無し
敷地後退 無し 再建築可否 可能

法令上の制限ですが、

  • 都市計画法
  • 建築基準法

ともに、目立った制限はありませんでした。

準工業地域に位置していることのみ、若干気になるところですが、周辺に工業施設があるわけでもなく、どちらかというと閑静な住宅地でした。

飲用水
敷地内 公共上水道(引き込み済)
宅内 公共上水道(引き込み済)
電気 オール電化
ガス 都市ガス(未開栓)
雑排水
敷地内 公共下水道(引き込み済)
宅内 公共下水道(引き込み済)
雨水 道路側溝

インフラの整備状況です。

上水道・下水道ともに公共上下水道を宅内まで引き込み済でした。

オール電化住宅でしたので、都市ガスエリアではありましたが、無関係としています。

角地 非角地 騒音・振動 無し
方位 北向き 眺望・景観
土地形状 整形地 日照・採光
奥行 適正 嫌悪施設 無し
面積 適正 高圧線 無し
道路種類 公道 住環境
道路幅員 適正 街路整備
敷地後退 無し 交通利便性
再建築可否 可能 小・中学校

土地固有の条件についてです。

概ね適正な条件が整っており、マイナス要素は見当たりませんでした。

また居住用としては良好な住環境が整っておりましたので、プラス要素として取り扱っています。

路線価 55,000円/㎡
公示価格 55,000円/㎡ 対象地路線価 44,000円/㎡

土地価格ですが、

  • 路線価
  • 公示価格
  • 近隣流通相場

を勘案し、23万円/坪と定めました。

従って、

47.25坪 × 23万円/坪 = 1,086.75万円

となります。

面積 適正 日照・通風 適正
間取 適正 リフォーム 無し
内観 良好 タバコ被害 無し
外観 良好 ペット被害 無し
設備 やや高性能 耐震性能 適正
特記事項 太陽光発電システム搭載

建物固有の条件についてです。

賃貸利用をしていたため、管理状況(とくに内観)が心配でしたが、退去時のメンテナンスもよく、とても良好な状態を保っていました。

設備グレードもやや高めで、太陽光発電システムも搭載しておりましたの、プラス要素が多く見受けられました。

建物価値ですが、

  • 取得時の建築価格
  • 物価高による建築コストの増大

を加味して、再調達価格を75万円/坪と設定し、耐用年数は50年を設定しました。

従って、

75万円/坪 × 33.38坪 × 84%(残存率) + 50万円(太陽光発電システム残存価値) = 2,152.94万円

となります。

土地価格 1,086.75万円
建物価格 2,152.94万円
合計価格 3,239.69万円

最終的な査定価格ですが、3,239.69万円を提示しました。

まごころう

売主と相談の上、売出価格は3,290万円に設定しました。

価格交渉を見越して幅を持たせた格好です。

オーナーチェンジ物件としての査定価格

賃貸を継続したまま、オーナーチェンジ物件として売り出した場合にどうなるか?についても査定を行なっています。

オーナーチェンジ物件として査定を行う場合には、購入検討者が投資家であることが重要になります。

投資家が検討を行う場合、表面利回りを意識する必要があり、一般に収益還元法という査定方式が取られます。

※ 収益還元法を正しく使う場合には、金利などを加味して、将来価値や現在価値の割戻も行うのですが、ややこしくなりますので計算への反映は割愛しました。

表面利回り

物件価格に対して、年間家賃収入がどの程度の割合になるのかを算出することで、投資コストの回収目安を表面的に出すための指標です。

例えば、物件価格が1,000万円で、年間家賃収入が100万円であった場合には、

100万円(年間家賃収入) ÷ 1,000万円(物件価格) = 10%(表面利回り)

となります。

収益還元法

得られる収益から割戻をして、適正な物件価格を算出する査定方法です。

本件の場合、周辺家賃相場を考えると、見込むことができる年間家賃収入は150万円でした。

大和ハウス工業施工の耐久性を考えれば、一般的な木造住宅に比べてより長い運用を見込むことはできましたが、投資家に魅力を感じてもらえる表面利回りの下限は5%と判断しました。

従いまして、

150万円(年間家賃収入) ÷ 5%(表面利回り) = 3,000万円

となります。

まごころう

悪くない価格が出てきましたが、あくまでも下限利回りでの話でしたので、

  • 実際には、表面利回り7%〜10%を求められる可能性がある
  • 投資家とのやり取りでは、大きめの価格交渉が入りやすい

などを加味して、売主と相談して、オーナーチェンジ物件として販売することは取りやめました。

販売準備:普通借家契約の解消

一般的な中古一戸建てとして販売する方針に決まったので、賃借人に退去してもらう必要(いわゆる、立ち退き交渉)がありました。

本件では、普通借家契約を締結しており、基本的な立場は賃借人が強くなります。

普通借家契約では、

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第28条

建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下、この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

と定められています。

まごころう

賃貸人の主張が、裁判所が正当事由として認めるような理由がない限り、一方的に賃借人を追い出すことはできないとされます。

賃借人が出ていきたくないと強く希望し、揉め事に発展してしまった場合には、第28条の条文などに照らし合わせて、裁判所判断を仰ぐ必要が出てきます。

本件では、

  • 賃借人が退去させられることで困るような特別の事情はなかった
  • 次の更新日まで半年以上の猶予があった(満期解約の申出ができるタイミング)
  • 立退料として、賃借人の引越し費用を負担する旨を提示していた

など、立退交渉が円滑に進む要素が整っていましたので、満期を待たずして立退が完了しました。

成約内容:満額にて成約

本件の成約内容ですが、

売出価格 3,290万円
成約価格 3,290万円
販売期間 3ヶ月

となります。

まごころう

状態の良い中古一戸建てで、価格も妥当でしたので、購入希望者が数組重なった結果、価格交渉も入ることなく満額にて成約に至りました。

決済準備:境界復元

引渡しに際して、契約条件に難しい内容はありませんでした。

敷地境界について、境界確定をしての引渡しとなっておりましたが、1箇所のみ境界鋲が失くなっていました。

座標の記載がされている比較的新しい測量図がしっかりありましたので、測量図を基に境界鋲の復帰のみ行なっています。

まごころう

参考程度ですが、境界鋲の復帰は1箇所で10万円弱でした。

当然ですが、土地家屋調査士により費用は変わりますし、複雑性や資料の整い具合でも差があります。

精算(税金含む):手残り資金1,162万円

不動産売買の結果、

売上 成約価格 3,290万円
経費
当初購入価格 3,680万円
仲介手数料 115万円
境界復元費用 10万円
抵当権抹消登記費用 3万円
利益 △518万円

となりました。

当初購入価格は、今回売却した家を売主が購入した当時の契約書を基に記載しています。

3,290万円が売上になりますが、

  • 当初購入価格(仕入れ値)
  • 仲介手数料
  • 境界復元費用
  • 抵当権抹消登記費用

を販売経費として差し引きができますので、商売として考えた時には、518万円の損失があったとなります。

まごころう

損失が出ることによって、譲渡所得税(不動産を売却して得た利益に対する税金)がかからなくなります。

今回のケースでは、8年間(自己居住、賃貸利用期間を合わせて)は自分で使っていたことになりますので、その間の経費が518万円しか掛からなかったと考えれば、かなりお得だったのではないでしょうか。

また実際の手残り金額ですが、

収入 成約価格 3,290万円
出費
住宅ローン残債 2,000万円
仲介手数料 115万円
境界復元費用 10万円
抵当権抹消登記費用 3万円
税金 0万円
手残り資金 1,162万円

となりました。

購入当初に頭金を多めに支払われており、比較的、住宅ローン残債が小さくなっていたため、手残り資金もまとまった額になりました。

まごころう

最近は頭金を入れずに住宅ローンを組む方が多いですが、転勤がある仕事をされている方など、売却の可能性を視野に入れなければいけない場合には、頭金を支払って借入額を抑えておくことで、身動きがしやすくなります。

成約価格が住宅ローン残債を下回ってしまう場合には、残りの債務額について、まとめて支払わなければ、基本的に決済ができないので困ることがあります。

注意ポイント

税金については、概算となります。

個別取引に応じて状況は異なりますので、詳細を知りたいときは税理士にご相談ください。

-不動産の売却